シャープは、5~10km離れた場所から無線伝送された4K映像をAIで解析させながら記録する「長距離映像モニタリング技術」を開発。従来技術と比べて、AIの映像解析に必要な準備期間を短縮でき、将来的には災害現場や避難所などの遠隔地からのモニタリングや、危険感知など幅広い用途での利用が見込まれると説明している。

  • 放牧牛を対象とした実証実験での映像解析の様子。牛の行動の違いを、緑色は起立、黄色は捕食中といったように枠の色で分類し、現在(左)と、直前(右、この実験では40秒前)の映像を比較。環境の変化を画面上部に表示している。

    放牧牛を対象とした実証実験での映像解析の様子。牛の行動の違いを、緑色は起立、黄色は捕食中といったように枠の色で分類し、現在(左)と、直前(右、この実験では40秒前)の映像を比較。環境の変化を画面上部に表示している。

発表内容の主なポイント

  • 超短波(VHF帯)を利用した「長距離映像伝送技術」により、5~10kmという長距離で4K映像伝送を実現
  • AI技術「動的映像モニタリング技術」により、事前学習無しで対象物を判別し、状況や行動の変化を記録。より短い準備期間で、さまざまな映像解析に適用可能
  • 国内外の実証実験で有用性を確認

長距離映像モニタリング技術は、ふたつの技術で構成している。ひとつは、京都大学が開発した超短波(VHF帯)を用いる無線伝送方式で、4K映像を長距離伝送する「長距離映像伝送技術」。もうひとつは事前学習なしで、リアルタイムで対象物の行動認識ができる「動的映像モニタリング技術」だ。

シャープでは長距離映像モニタリング技術の有用性を確認するために、国内外で実証実験を2025年3月から2026年1月にかけて実施。国内では、動物園や水族館で飼育されている動物の行動把握や、航行中の船舶からの映像伝送を実証し、国外ではオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)とともに、遠隔地からの放牧牛のモニタリング実証実験を行ったという。これらの実証を通じて、さまざまな分野に展開できることを示している。

  • 2026年1月に実施した、大分での実証実験における伝送距離(約6km)と位置関係

    2026年1月に実施した、大分での実証実験における伝送距離(約6km)と位置関係

同技術はシャープが、京都大学 原田博司研究室、早稲田大学 渡辺裕研究室、大分朝日放送と共同で、情報通信研究機構(NICT)より受託した「日米豪国際連携を通じた超カバレッジBeyond 5G無線通信・映像符号化標準化技術の研究開発」の一環として開発したもの。主な役割(担当分野)は以下の通り。

主な役割(担当分野)

  • シャープ:映像伝送技術・動的映像モニタリング技術・動的プロンプト技術の開発
  • 京都大学:長距離通信技術の研究開発、通信装置の設計・製作・設置と動作確認
  • 早稲田大学:機械向け映像圧縮技術の研究開発・ソフトウェアの提供
  • 大分朝日放送:研究開発向け素材映像の提供、実証実験の映像撮影と現地運営
  • CSIRO:豪州実証実験の通信装置の設計・製作・設置、現地運営

シャープは、今回開発した「長距離映像モニタリング技術」で使っている、無線通信と映像圧縮技術をさらに発展させるため、国際標準として策定される次世代通信規格「Beyond 5G」と次世代動画圧縮規格「Beyond VVC」での採用に向けて、無線通信や映像圧縮の国際標準化会合での提案を進めている。

今回実証した動物や船舶だけでなく、交通インフラや災害対策といった多分野へ適用できるよう、長距離無線通信とAI技術を通じたDX支援に取り組むとしている。

長距離映像モニタリング技術の主な特長

1. VHF帯利用し最大10kmまで4K映像伝送

シャープらが開発した「長距離映像伝送技術」は、京都大学が発表したVHF帯無線技術と、映像圧縮伝送技術を利用したもの。

通信環境や映像内容にもよるが、5~10km離れた通信装置間で映像データを直接伝送可能。携帯電話の基地局を設置しにくい離島などの場所や、牧場をはじめ広大なエリア内での4K映像の伝送を実現する。

また、伝送する映像データの解像度やビットレートなどの仕様変更も行え、設置環境や使用目的に合わせてデータ通信量を変えることもできるという。

2. 事前学習なしで対象物をAI判別、状況や行動の変化を記録

新技術の「動的映像モニタリング技術」は、画像や言語を扱うAIに、目的動作の指示文であるプロンプトと、前処理/後処理を適用することで、より短い時間の準備で利用開始できるのが特徴。

前処理は、AIが効率よく推論できるようにするためのデータ加工のことで、後処理は、AIの出力データをユーザーが理解、利用しやすい形に変換することを指す。

この技術に合わせて開発した「動的プロンプト技術」(入力された映像や文脈などに応じて、AIに対する指示文を自動的に生成する技術)を組み合わせることで、AI自身が映像に応じて、プロンプトを自動生成。解析内容をもとにした音声ナレーションやクイズを作成できるという。

  • 映像をもとに、ナレーション(画面下部の文章)をAIが自動生成したところ

    映像をもとに、ナレーション(画面下部の文章)をAIが自動生成したところ

3. 国内外の実証実験で有用性を確認

これまでに国内外のさまざまな場所や用途で行った実証実験により、同技術の有用性を確認。

具体的には、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の「CSIRO Armidale Research Farm」では放牧されている牛を解析対象とし、各個体の行動分類や時間変化の記録を実証。

また、高崎山自然動物園(大分・大分市)で飼育されている猿の映像や、西大分ホーバーターミナル(同)の運行船舶の船外映像を解析し、遠隔地との長距離(約5km)での映像伝送や、その映像の解析、音声ナレーション生成などを実施している。

このほか、大分マリーンパレス水族館「うみたまご」(同)ではイルカショーや施設内ビーチを解析対象とし、約6kmという距離で4K映像伝送を実施。さらにAI解析用のフルHD映像を約300kbps(通常の1/10のビットレート)で伝送している。その上で、イルカショーの様子を解析したり、音声ナレーションに加えてクイズの自動生成などを行ったとのこと。

  • 左:動物園からの伝送映像および映像解析 右:運行中のホーバークラフトからの伝送映像(2025年3月実施、撮影:大分朝日放送)

    左:動物園からの伝送映像および映像解析 右:運行中のホーバークラフトからの伝送映像(2025年3月実施、撮影:大分朝日放送)

  • 生成された映像クイズ(2026年1月実施、撮影:大分朝日放送 撮影協力:大分マリーンパレス水族館「うみたまご」)

    生成された映像クイズ(2026年1月実施、撮影:大分朝日放送 撮影協力:大分マリーンパレス水族館「うみたまご」)