慶應義塾大学(慶大)は10月12日、シリカから作製した「トロイド共振器」を用いることで、これまでで最小の発光線幅を有するカーボンナノチューブ(CNT)発光を得ることに成功したと発表した。
同成果は、慶大理工学部物理情報工学科の牧英之教授、同・電気情報工学科の田邉孝純教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するナノマテリアルに関する分野全般を扱う学術誌「ACS Applied Nano Materials」に掲載された。
単層CNTは、原子1層の厚みの炭素シートを筒状に丸めた一次元構造のナノ材料であり、中でも半導体のCNTは、光通信で用いられる波長1.55μm帯の通信波長帯で発光することから、化合物半導体に代わる次世代の光通信用材料やシリコンチップ上での集積光デバイス用材料として期待されている。
また近年になってCNTは、量子光源用材料としても世界的に注目されるようになっており、研究チームもこれまでの研究において、室温かつ通信波長帯の単一光子源の開発に成功するとともに、高効率で高純度な単一光子が室温・通信波長帯で発生可能なことも示してきたという。
しかしCNTからの発光は、得られる発光をそのまま利用した場合、発光ピークの線幅が数十nm程度と広いことが課題であり、そのまま光通信などに利用すると、波長分散などの影響で通信帯域や伝送距離の低下を招いたり、波長多重化が困難だったりする問題を抱えていたという。そのためCNTは、従来の半導体では得られない優れた特性があるにも関わらず、光通信や量子情報技術分野において 、実用化がほとんど進んでいない状況だったという。
そこで研究チームは今回、狭線幅の発光を得る新たな技術として、シリカトロイド共振器というリング状の共振器をシリコンチップ上に形成することにしたという。