慶應義塾大学(慶大)は2月16日、1原子分の厚さの炭素の極薄シート状物質であるグラフェンを用いたマイクロヒーターをシリコンフォトニクスと融合させることで、現在の光スイッチの数~数十倍の高速性を有する高性能な「シリコンチップ上光スイッチ」を実現したと発表した。

同成果は、慶大理工学部 物理情報工学科の牧英之教授、東京大学 先端科学技術研究センターの門内靖明准教授(研究当時・慶大理工学部所属)らの共同研究チームによるもの。詳細は、ナノサイエンスとナノテクノロジーを包括的に扱う学術誌「ACS Nano」に掲載された。

インターネットの大容量・高速通信を支える光スイッチだが、現在その速度は1~10ms程度であり、さらなる高速化を実現する技術として、シリコンチップ上の光導波路を用いたシリコンフォトニクスによる光スイッチが近年、注目されるようになっており、すでに10μsオーダーのものも報告されるようになっているという。

そうした多くのシリコン上光スイッチでは、温度変化に伴う屈折率の変化(熱光学効果)に対し、金属ヒーターを用いた局所加熱を用いる手法が主流であるものの、さらなるスイッチ速度や効率の向上のためには、さらなる技術開発が求められていた。

こうした背景を踏まえ研究チームは今回、シリコン上の光スイッチに関する新たな技術として、すでにGHzオーダーの高速な温度変調が可能であることが報告されているグラフェンをヒーターとして従来の金属ヒーターに代わって用いることを考案。シリコンフォトニクス素子上にダイレクトにマイクログラフェンヒーターを形成することで、高速で動作する光スイッチを開発することにしたという。

  • シリコンフォトニクス

    (上)(左)開発したグラフェン光スイッチの模式図。(右)実際に作製された光スイッチの共振器部分の電子顕微鏡像 (出所:慶大プレスリリースPDF)

実際に開発された素子では、シリコン基板上において、レーストラック型共振器に対して2つの導波路を形成した光スイッチ素子が設計され、シリコン共振器上にダイレクトにグラフェン素子が形成された。

このグラフェン素子に電圧を印加して共振器をジュール加熱することで、共振器の屈折率を熱光学効果で変調させ、共振器内への光の結合の有無を電気的に制御することで、透過光出射と分岐光出射を選択可能な光スイッチ動作が実現されたとする。

リアルタイムでの光スイッチ動作が行われたところ、100kHzでの動作が確認されるとともに、その立ち上がり、立ち下り時間がそれぞれ1.2、3.6μsでのスイッチングが可能であることが実証されたとする。このスイッチ速度は、同じ機構の金属ヒーター光スイッチと比べて数~数十倍ほど高速であり、金属をグラフェンに置き換えるだけで特性が向上できることが示されたという。

  • シリコンフォトニクス

    光スイッチの様子。透過光出射状態(左)と分岐光出射状態(右)。(下)光スイッチのメカニズム。グラフェンへの通電の有無によって共振器の屈折率が変わるため、共振器への光の結合が制御されており、透過光出射状態(左)と分岐光出射状態(右)をスイッチすることができる (出所:慶大プレスリリースPDF)

また、この高速動作のメカニズムについてデバイスの熱伝導シミュレーションによる解析から、グラフェンの優れた熱伝導特性に起因する高速動作であることが理論的に示されたともしている。

シリコンフォトニクスは、従来の長距離の光通信だけではなく、機器間や機器内部の配線を光に置き換える光インターコネクトや光集積回路などの次世代光技術、さらには、チップ上での量子計算チップや量子暗号チップなど、さまざまな光デバイス技術への応用も検討されていることから、今回の成果について研究チームでは、さまざまなナノカーボンデバイスを集積したナノカーボン集積光デバイスの実現も期待されるとしている。