その結果、2次元共形場理論の「Wess-Zumino-Witten模型」に対し、これまで物理学では馴染みがなかった特殊な極限を取ると、3次元ドジッター宇宙の重力理論と等価になることが発見されたという。

dS/CFT対応では、宇宙の波動関数が、対応する量子物質の分配関数に一致することが期待されている。今回見出だされた上述の対応を用いると、確かに両者が一致することが示されたという。

また、ドジッター宇宙はエントロピーを持つことが知られている。今回の成果を応用することで、それが量子もつれの大きさを測るエンタングルメント・エントロピーと解釈できることも明らかにされた。

今回の研究によって、一般相対性理論はドジッター宇宙を記述する最も基本的な重力理論だが、それに対するホログラフィー原理の具体例が見出されたことになると研究チームでは説明するほか、量子情報からの重力理論における宇宙の創発という考え方が、ドジッター宇宙に対しても適用できる可能性も高まったともし、今回の新たなアプローチによって、量子重力理論の完成に向けて大きな進展をもたらすことが期待されるとしている。

  • ドジッター宇宙のホログラフィーの概念図

    ドジッター宇宙のホログラフィーの概念図。指数関数的に膨張する宇宙であるドジッター宇宙は、ホログラフィー原理の考え方を用いると、無限の未来に存在する物質の理論とみなすことができる。たとえば、その物質の2点間の相関は、赤い線として図示されているドジッター宇宙内の曲線の長さから計算される (出所:京大プレスリリースPDF)

なお今後は、今回の対象である3次元ドジッター宇宙のホログラフィー原理の具体例を広げていくと同時に、現実の宇宙に直接関係する4次元(3次元+時間1次元)のドジッター宇宙のホログラフィー原理を、解明していくことが重要になるとしており、それは同時に、従来の枠を超えた共形場理論の研究にもつながり、新種の量子物質の探索にもつながることが期待されるとしている。

また、より系統的に量子もつれの集合体からどのような規則で宇宙が創発するのかという理解を深めていく必要もあるともしている。特に、時間軸が量子もつれによって、どのように自発的に生まれるのかを解明することは重要であり、それは「量子重力理論における時間とは何か」、さらに「宇宙が生まれるということはどういうことか」という、根源的な疑問にも直結するとしている。