大阪大学(阪大)は5月27日、10万時間におよぶ宇宙論的シミュレーションから得られた銀河間物質のガス分布(特に中性水素)を、機械学習技術によって数秒で再現できる新しい数値計算手法を開発することに成功したと発表した。

同成果は、阪大大学院 理学研究科の長峯健太郎教授、同・清水一紘特任研究員(現・四国学院大学 准教授)、スペイン・カナリアス天体物理学研究所(IAC)のフランシスコ・シュウ・キタウラPI、同・フランチェスコ・シノガリア大学院生(スペイン・ラ・ラグーナ大学/イタリア・パドヴァ大学にも在籍)、同・アンドレス・バラゲーラ・アントリネス研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に2本の論文として掲載された。

現在の天文観測から、宇宙で我々が観測可能な通常物質は5%ほどで、残りはダークマターが約25%、宇宙を膨張させているダークエネルギーが約70%と見積もられている。そのため、現在の宇宙にある大規模構造の形成に通常物質の影響は少なく、ダークエネルギーとダークマターの相互作用によってほぼ決まると考えられている。

現在の最先端の数値シミュレーションでは、これらの過程を現実的に計算することが可能になってきており、再現できる大規模構造の範囲もスーパーコンピュータ(スパコン)の性能や計算技術の進歩と共に拡大している。しかし、まだ多くの不確定要素も残っているという。

信頼できる理論的な予測を得るためには、宇宙論的な大領域をカバーし、関連するすべての物理過程を含むさまざまなモデルに基づいた大規模な流体シミュレーションを実行する必要があるとされている。

これらの「仮想宇宙」は、宇宙論研究のための実験場として機能するが、こうしたシミュレーションは計算コストが高く、現状の計算機設備では、現在および将来の観測でカバーされる宇宙全体の体積に比べてまだ小さな領域しか再現できてないという課題がある。そこで研究チームは今回、宇宙論的流体シミュレーションの結果を詳細かつ高速に再現する新しい方法を開発することにしたという。