史上初となる国際宇宙ステーション(ISS)への民間宇宙飛行ミッション「Ax-1」が、2022年4月9日から始まった。

米宇宙企業アクシアム・スペースが企画したもので、4人の「民間宇宙飛行士」が参加。スペースXの宇宙船クルー・ドラゴンでISSを訪れ、約8日間滞在し、実験や研究を行う。

ISSへの宇宙旅行はこれまでも行われてきたが、今回は民間主導による、民間宇宙飛行士のミッションという点で一線を画する。そして、将来の宇宙ステーションの商業化という目標に向けた大きな一歩ともなるものである。

  • Ax-1

    4人の民間宇宙飛行士からなる、Ax-1のクルー (C) SpaceX

アクシアム・スペースによるAx-1

アクシアム・スペースは2016年に設立された企業で、テキサス州ヒューストンに拠点を置く。

宇宙飛行、旅行の手配や仲介、サービスの販売を行うほか、将来的にはISSに自社製のモジュールを結合したり、単独で商業用の宇宙ステーションを運用したりすることも目指している。

同社は2020年3月、宇宙企業スペースXとの間で、クルー・ドラゴン宇宙船を使ったISSへの飛行を契約。「Ax-1 (Axiom Space-1)」と呼ばれるミッションが動き出した。

これまで、ISSへの飛行・滞在ミッションはすべて、国の宇宙機関が主導する形で行われてきた。ロシアの「ソユーズ」宇宙船を使った宇宙旅行も行われているが、いずれもロシアの宇宙機関・宇宙企業の宇宙飛行士が指揮を執っていた。

だが、今回のAx-1は、純粋な民間企業が、民間人のみを乗せ、民間の宇宙船を使って宇宙ステーションに飛行、滞在する、史上初のミッションとなる。

Ax-1には、元NASA宇宙飛行士でアクシアム副社長のマイケル・ロペズ-アレグリア氏のほか、民間人のラリー・コナー氏(米国)、マーク・パシー氏(カナダ)、そしてエイタン・スティベ氏(イスラエル)の計4人が参加している。

このうち、ロペズ-アレグリア氏は同社所属の民間宇宙飛行士「アクシアム・アストロノート(Axiom Astronaut)」として、ミッションの責任者を担当。コナー氏、スティベ氏、パシー氏の3人は、自ら運賃を支払ったうえで「民間宇宙飛行士(private astronaut)」として参加する。

民間宇宙飛行士という肩書きは、これまでも自称していた人はいたが、NASAなどが公式に認めたものはこれが初となる。前澤友作氏のように、これまでロシアのソユーズを使って自費でISSを訪れた人は「宇宙飛行参加者(Spaceflight participant)」や「宇宙旅行者」と呼ばれており、いわゆる「宇宙飛行士」には分類されない。

宇宙飛行参加者は、訓練時間はより短く、ISSでの活動も個人的なものが多かった。しかし、コナー氏ら3人は、750時間から1000時間以上の訓練を受け、さらにISS滞在中には累計100時間以上をかけて、米国や日本などの企業、大学、研究機関などから依頼を受けた計25の実験・研究を行うという点で、宇宙飛行参加者とは異なっており、それゆえに民間宇宙飛行士と呼ばれている。

3人が支払った金額は明らかにされていないが、NASAの資料などから、1人あたりおよそ5500万ドルとみられる。

  • Ax-1

    ロケットを背に打ち上げを待つAx-1のクルー (C) SpaceX

Ax-1の飛行

4人を乗せたクルー・ドラゴン「エンデバー」は、ファルコン9ロケットに搭載され、日本時間9日0時17分12秒(米東部夏時間8日11時17分12秒)、フロリダ州にあるケネディ宇宙センターの第39A発射施設から離昇した。

ロケットは順調に飛行し、軌道投入に成功。その後、軌道変更を重ねつつISSに接近。そして9日21時29分、ISSとのドッキングに成功した。

ISSにはNASAと欧州宇宙機関(ESA)、ロシア国営宇宙企業ロスコスモスの宇宙飛行士が7人滞在しており、ISSは一時的に11人の大所帯となる。

その後、4人はISSに入船。ロペズ-アレグリア氏は会見で「ある特定の境界線を超えると、宇宙飛行士と呼ばれるという伝統があります。この3人(コナー氏、スティベ氏、パシー氏)は昨日、まさに宇宙飛行士になりました」と語った。

「これは有人宇宙飛行の新しい時代の幕開けです」(ロペズ-アレグリア氏)。

また、元NASAのISS計画のマネージャーを務め、現在はアクシアムのCEOを務めるマイケル・スフレディーニ(Michael Suffredini)氏は、「この旅は、4人のクルーとアクシアム・スペースのチーム全体、スペースXとのパートナーシップ、そしてなにより、地球低軌道での持続可能なプレゼンスを創出するという、NASAのビジョンにおける、長時間の訓練、計画、そして献身の集大成なのです」とコメントしている。

Ax-1の4人はISSに約8日間滞在する予定で、地球への帰還は4月18日に予定されている。

4人が搭乗するエンデバーは、クルー・ドラゴン艦隊の1番機で、2020年にデビューした。人が乗り込むカプセル部分は再使用でき、これまでに初の有人試験飛行ミッション「Demo-2」(2020年)、星出彰彦宇宙飛行士らが搭乗した2回目の有人運用ミッション「Crew-2」(2021年)で飛行し、今回が3回目の宇宙飛行となる。

今回の飛行に際し、アクシアムはISSの電力や生命維持装置、食料、就寝スペースなどを利用するための費用をNASAに支払った。一方NASAは、ISSに設置されている実験用の冷凍庫と試料を地球に持ち帰るためにAx-1の機会を利用。そのための費用をアクシアムへ支払っている。

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    Ax-1のクルーを乗せたクルー・ドラゴン「エンデバー」の打ち上げ (C) SpaceX

  • Ax-1

    ISSに到着し、長期滞在中の宇宙飛行士たちと合流したAx-1のクルー (C) NASA