地球の上空約400kmを回る国際宇宙ステーション(ISS)。つねに約7人の宇宙飛行士が滞在し、地球や天体の観測、宇宙環境を利用した実験や研究などを行っている。

そんなISSも、建設開始からまもなく四半世紀を迎え、老朽化が進んでいる。その一方で、民間による地球低軌道における活動が活発になりつつある。

こうした事情を背景に、米国のバイデン政権は2021年12月31日、ISSを2030年まで運用する計画を発表。それを受け米国航空宇宙局(NASA)は2022年2月1日、2030年までのISSの運用と、その後の解体処分、そして民間による新たな宇宙ステーションの計画について明らかにした。

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    国際宇宙ステーション (C) NASA

ISSの運用を2030年まで延長

ISSは、米国やロシア、欧州、日本、カナダなどの国々が協力し建設した宇宙ステーションで、地球の上空高度約400kmを、約90分に1周する速さで回っている。大きさはサッカー場ほどもあり、質量は約420t。人類史上最も高価で、技術的に複雑な建造物のひとつとして知られる。

建設が始まったのは1998年のことで、ロシアが最初のモジュール「ザリャー(ザーリャ)」を打ち上げたのを皮切りに、宇宙飛行士が滞在・実験するためのモジュールや太陽電池などを次々に打ち上げて結合し、2011年をもって完成した。その後も新たなモジュールの追加や、民間企業が開発した補給船や宇宙船が訪れるなど、日々発展を続けている。

これまでに約250人の宇宙飛行士や旅行者が訪れ、3000件以上の宇宙実験・研究が行われている。

ISSはこれまで、2024年まで運用することが決まっており、それ以降について、米国や欧州、日本などは延長することを望みつつ、正式には決まっていなかった。

そんな中、2021年12月31日に、ISSの中心国である米国のバイデン政権は、ISSの運用を2030年まで延長することを表明。それを受け、NASAのビル・ネルソン長官は、NASAとして責任をもって応えることを表明した。

ネルソン長官は「米国のISS参加継続は、技術革新と競争力を高め、アルテミス計画で人類を月や火星に送る道を拓く。より多くの国が宇宙で活動する中、米国が宇宙の平和的かつ責任ある利用のために世界をリードし続けることがこれまで以上に重要である」と語る。

また、「ISSというユニークな微小重力実験室は、地上の人々に恩恵をもたらす膨大な成果を還元している」とし、その中でも「ISSに搭載された地球の観測装置は、さまざまな時間スケールでの炭素と気候の相互作用をより深く理解するのに役立っており、これらを2030年まで運用することで、気候サイクルに対する我々の理解は大きく深まる」と期待を寄せている。

NASAなどはかねてより、延長に向けた技術的な評価を行っていた。2021年7月には、米国などISS参加国の間で、「ISSは、適切な保守を継続しながら、2030年まで地球低軌道における卓越した生産的なプラットフォームとして維持できることを認める」ことが表明されている。

ただ、ロシア側のモジュールについては評価が終わっておらず、予断は許さない。とくにザリャーなど初期に打ち上げられたモジュールは、最近では空気漏れが発生するなどしており、ロシアの宇宙開発関係者からは運用継続に懸念の声も上がっている。

今回の延長について、米国はロシアや欧州、カナダ、そして日本に対し、延長に参加することを呼びかける書簡を送っている。ロシア国営宇宙企業ロスコスモスは基本的には延長を支持しており、手続きを進めるとしている。また、欧州宇宙機関(ESA)は2022年末に、カナダ宇宙庁は2023年第1四半期を目標に、参加の可否について決定する予定としている。日本でも、文部科学省の国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会会議において議論が始まっている。

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    国際宇宙ステーションの全景 (C) NASA

2031年には大気圏に落として廃棄処分

NASAはまた、2030年の運用終了後、ISSを廃棄処分する計画についても明らかにした。

計画では、まず2020年代の後半から、ISSの軌道を徐々に下げることから始まる。軌道変更には、ロシアの「プログレス」補給船を3機、また米国の「シグナス」補給船を順次使い、逆噴射をかける。

軌道離脱作業の最初の数か月間は、ISSに宇宙飛行士が滞在した状態で行われる。その後、2030年末には宇宙飛行士は完全に退去し、最終的には地上からのリモートで作業が行われるという。

そして2031年はじめに、南太平洋上の「ポイント・ネモ」、別名「宇宙機の墓場」とも呼ばれる海域に向けて、大気圏に再突入させる。機体の大半は燃え尽き、燃え残った破片も海に落下する。

ポイント・ネモは、東西南北すべてが陸地や島から遠く離れた、周囲にまったくなにもない海域で、再突入時に燃え残った破片が落下しても被害を与える危険性がない。そのため、衛星を制御落下させる先として最適で、これまでにもロシアの「ミール」宇宙ステーションのような大型の宇宙機をはじめ、世界各国が300機近い衛星やロケットをこの海域に落下させている。

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    ポイント・ネモの位置を示した図 (C) NASA