日本IBMと順天堂大学は4月13日、都内で記者説明会を開き、「メディカル・メタバース共同研究講座」を設置し、産学連携の取り組みを開始すると明らかにした。同講座では、メタバース技術を活用した医療サービスの研究・開発に取り組む。

  • 「順天堂バーチャルホスピタル」のイメージ

    「順天堂バーチャルホスピタル」のイメージ

短期、中長期に分けて取り組みを検討

日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏は「順天堂大学とは過去3年間にわたり、パーキンソン病や認知症へのAI適用に関する研究に加え、電子カルテを含む医療情報システムの構築を行ってきた。今回の取り組みは、これまでの共同の活動を先に進めるステップとなる」と述べた。

  • 日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏

    日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏

一方、順天堂大学 学長の新井一氏は「医療、医学は大きな社会課題ではあるが、さまざまな取り組みを行い、質の向上を目指していく。例えば、脳神経内科からMRIの案内など現実的なシンプルなものに加え、脳トレなどを想定している。また、運動障害などを検討しており、バーチャル上でうまく動けることをアバターで行うことで現実世界でも実践してもらう治療などを計画している」と力を込めた。

  • 順天堂大学 学長の新井一氏

    順天堂大学 学長の新井一氏

今回、両者では短期実施テーマと中長期実施テーマに分けて、各取り組みを並行して検討を進める。短期実施テーマでは、メタバース空間で順天堂医院を模した「順天堂バーチャルホスピタル」の構築、患者や家族が来院前にバーチャルで病院を体験できる環境を検討する。

  • 「メディカル・メタバース共同研究講座」の概要

    「メディカル・メタバース共同研究講座」の概要

さらに、中長期実施テーマとしてはメタバース空間での活動を通じて、メンタルヘルスなどの疾患の改善が図れるのかを学術的に検証する計画となっている。

日本IBM 執行役員の金子達哉氏は「健康寿命を延ばすためには、健康の維持・管理や介護、リハビリなどのライフイベントを能動的に行う必要がある。そのため、順天堂大学と共同で人生100年時代に向けて自らが健康・治療・介護といったライフイベントをデザインし、創造する場を提供したいと考えた」と共同研究講座を設けた背景を説明した。

  • 日本IBM 執行役員の金子達哉氏

    日本IBM 執行役員の金子達哉氏

加えて、順天堂大学 医学部長・研究科長の服部信孝氏は「複雑な説明をメタバース空間のアバターで行うことで、治療法や薬の副作用などをストーリー性を持って分かりやすく説明できるのではないかと考えている」と話す。

  • 順天堂大学 医学部長・研究科長の服部信孝氏

    順天堂大学 医学部長・研究科長の服部信孝氏

順天堂バーチャルホスピタル、3つの柱

順天堂バーチャルホスピタルは、患者・家族に加え、介護業界や医療機器メーカー、アパレル、保険会社、製薬企業、関連病院、個人、自治体とさまざまなプレイヤーとリアル&バーチャルで連携していくために、3つの柱を据えている。

1つ目は「患者の満足度向上、医療従事者の働き方改革」となり、提供サービス例として患者・家族が直面する時間・場所の制約排除を目指すコミュニティ広場(外出・旅行、交流・情報交換など)、事前体験を通じた患者・家族の不安解消を図る疑似体験(治療体験、治験説明、入院体験など)、医療従事者の負担軽減を目的とした実物の病院での業務をバーチャルで代替(予約、問診、支払)などを想定している。

  • 「患者の満足度向上、医療従事者の働き方改革」の概要

    「患者の満足度向上、医療従事者の働き方改革」の概要

2つ目は「医療の質向上、新たな治療法の確立」だ。新たな治療法例としては、バーチャルでの活動・体験による治療として別人格で活動することの効果を検証していくとともに、さまざまな場所に行き、人と交流することの効果を検証。また、リアルとバーチャルの活動・体験の差分を検証し、アンメットニーズ(いまだ満たされていない医療ニーズ)を抽出して新たな治療法を探り、患者の健康・治療を促進していくことで医療と社会に貢献するという。

  • 「医療の質向上、新たな治療法の確立」の概要

    「医療の質向上、新たな治療法の確立」の概要

3つ目は「新たな市場の創出」となり、提供サービス例は製薬において未来の自分(デジタルツイン)との対話による服薬アドヒアランス(患者が治療方針に賛同して積極的に治療を受けること)向上、メタバース空間での地権者のマッチング・治験説明を想定。また、保険ではデジタルツインにもとづく、新たなリスクモデルを構築するほか、アパレルではアバターを通じた自己表現などを検討している。これにより、産業横断プラットフォームの形成による新たな産業と市場の創出を図る考えだ。

  • 「新たな市場の創出」の概要

    「新たな市場の創出」の概要

両者は、2022年中に順天堂バーチャルホスピタルの設立とビジネスモデルを構築し、2023年以降には事業化・事業展開、エコシステムの形成を予定。短期実施テーマに関する試作品を2022年中に発表していくことを目指す。順天堂バーチャルホスピタルは今後3年間で累計1万人の利用を想定している。

  • 今後のロードマップ

    今後のロードマップ