アドビは7月6日、企業向けにクリエイティブワークフローの自動化を実現する「Adobe Firefly Graph エンタープライズ版」と、そのワークフローを制作現場で大量に実行・運用する「Adobe Firefly Creative Production エンタープライズ版」の提供を開始した。
あわせて、ブランドの一貫性を保ちながらコンテンツを大規模展開するための「Adobe Brand Intelligence」に、キャンペーン実施前の反応を予測する新機能「シミュレート」が追加されたことも発表。同日、報道関係者向けに製品説明会が開催された。
企業のAI活用に立ちはだかる「3つの壁」
アドビが2025年12月に発表した調査によれば、世界のクリエイターの9割以上が生成AIによって制作スピードが向上したと実感している。日本企業でも画像生成AIを「まったく使っていない」という回答はほぼゼロだが、著作権侵害や情報漏洩への懸念から、社外向けコンテンツでの活用は2割程度にとどまっているという。また、コンテンツ制作需要は2024年から2026年の2年間で5倍に増加したとの調査結果も示された。
松原氏は、企業が生成AIを本格活用するうえでの課題として、「価値創出の壁」(PoCや部門単位の試験導入にとどまり事業成果に結びつかない)、「コンテンツ需要の急増」(従来の制作体制ではスピード・量に対応しきれない)、「信頼性・ガバナンス」(著作権や情報漏洩への懸念に加え、コンテンツの来歴=プロビナンスの担保が必要)の3点を挙げた。こうした課題に、アドビは「生成AIモデル選択の自由」「クリエイティブワークフローの自動化」「ブランドインテリジェンス」の3本柱で応えるとした。
Fireflyだけでなく提携AIも使える、自社カスタムモデルも作成可能
Creative Cloudにおける生成AIモデルの土台となるのは、商用利用を前提に安全性に配慮して設計された「Adobe Firefly」。学習データはライセンス許諾済み・パブリックドメインのコンテンツに限られ、Creative Cloud上の個人制作コンテンツを学習に用いることはないという。
これに加え、用途に応じて業界トップクラスのAIを選べる「パートナーモデル」を用意。エンタープライズ向けには管理者コンソールが用意され、モデルごとの利用権限管理が可能なほか、パートナー各社と個別契約せずアドビとの単一契約内で利用できる。さらに、自社のイメージアセットでモデルをトレーニングし、ブランドの世界観に沿った画像を生成できる「カスタムモデル」も提供される。
あわせて、自然言語の指示だけで複数アプリをまたいだ業務を実行する「クリエイティブエージェント型機能である「Firefly AIアシスタント(ベータ版)」も紹介した。
デモでは、素材画像をアシスタントに投入するだけでサイズ調整や色合いの統一を自動実行し、Photoshopに引き継いだ後もアシスタント経由でGoogleのモデルを呼び出して縦横比変更やシネマティックな色調補正を自動化する様子が示され、最終仕上げのみを人が担う流れが披露された。
クリエイティブワークフローを共有資産に変換する「Adobe Firefly Graph」
今回リリースされた「Adobe Firefly Graph エンタープライズ版」は、AIを活用したワークフローを構築するビジュアルキャンバスだ。
Photoshop、Illustrator、Premiereのクリエイティブ技術とFirefly等のAIモデルを単一のワークフローに統合し、300種類以上のノード・生成アクションを組み合わせられる。構築したワークフローは組織全体で共有し、再利用可能な資産として管理可能だ。
デモでは、アパレル商材の1枚の画像を起点に、Nano Bananaモデルで商品カットのアングル違いを生成し、Photoshopの機能をノードとして組み込んで色調整、さらにChatGPT系モデルでモデル着用画像を作成するなど、複数のAIモデルをまたいだワークフロー構築を披露。複雑な処理を「サブグラフ」としてカプセル化できる点や、商品画像を差し替えるだけで全体が自動更新される再利用性もアピールした。
このワークフローを量産現場で実行するのが「Adobe Firefly Creative Production エンタープライズ版」。制作テンプレート管理、バリエーション作成、大規模自動化、ブランド・アセット検証を統合し、Frame.ioとの連携でレビュー・承認までシームレスにつなぐ。
同製品に含まれる新機能「Workflow Builder」は、FireflyからGoogleやOpenAIなどのパートナーモデルまでを横断してワークフローを構築・展開できるもので、Photoshop・Premiere・Illustrator・InDesignとも連携する。デモでは、Firefly Graphで設計したグラフィックセットを基に、マーケティング担当者が画像を投入するだけでチャンネル別・言語別のバリエーションを自動生成する様子が紹介された。
「Adobe Brand Intelligence」にシミュレート機能を追加
「Adobe Brand Intelligence」について、松原氏は「世界初の継続的に学習する自律型ブランドインテリジェンスシステム」と説明した。ブランドルールや暗黙知を構造化する「ブランドオントロジー」、ロゴやカラー等を認識する「特化型コンピュータビジョンモデル」、それらを基に判断・実行する「推論エンジン」の3技術で構成される。
実務で使えるスキルは3つ。「検証」は広告やSNSクリエイティブがブランドガイドラインに沿っているかを自動チェックし、逸脱箇所を指摘、人のフィードバックで精度を高める。「組み立て」は制作指示書(キャンペーンブリーフ)を基に最適な画像・レイアウト・コピーを自動選定・構築する。そして新機能の「シミュレート」は、実データを基にした仮想ターゲット層「合成オーディエンス」を用い、公開前にAI上でフォーカスグループインタビューを再現して反応を予測する。
デモでは、微妙なニュアンス違反をAIが検知しガイドライン箇所を特定する例や、ホテルチェーンのキャンペーンでターゲット層や訴求ポイントを選ぶだけで100種類超のバリエーションを自動生成する例、2案のブランド適合度・好感度を定量スコアと定性コメントの両面で比較する例が披露された。合成オーディエンスは年齢・性別に加え年収や居住地、趣味嗜好まで詳細に設定されるという。
なお、松原氏は、Brand Intelligenceは「導入すればすぐ使える製品ではない」とし、企業ごとのガイドラインや過去のクリエイティブをAIに学習させる必要があると説明。同社が設計から運用までを伴走しながら、顧客専用のシステムを構築するアプローチを取るとした。
「人に取って代わるAI」ではなく「人を後押しするAI」を推進
説明会の締めくくりで松原氏は、「AIがどれだけ進化しても、ブランドらしさとは何かを最終的に決めるのは人である」とし、今回の製品群を「人の仕事を奪うAIではなく、人のひらめきや専門性、創造性を引き出し、企業の競争力を加速させるパートナー」と位置づけた。






















