理化学研究所(理研)は2月10日、ヒトのように表情を作れるアンドロイド(ヒト型ロボット)を開発し、その妥当性を心理実験で実証したと発表した。

同成果は、理研 情報統合本部 ガーディアンロボットプロジェクト 心理プロセス研究チームの佐藤弥チームリーダー、同・難波修史研究員、同・プロジェクト インタラクティブロボット研究チームの港隆史チームリーダー、同・イシイ・カルロス・トシノリ上級研究員、京都大学 情報学研究科のヤン・トウショウ大学院生、同・西田眞也教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、心理学全般を扱う学術誌「Frontiers in Psychology」に掲載された。

これまでアンドロイド(ヒト型ロボット)には、「不気味の谷」と呼ばれる課題があったが、近年では完全な解決までには至っていないものの、エンターテイメント用アンドロイドなどを中心に、そうした点の改善が進み、自然な笑顔など、ある程度の表情に関しては不自然さを感じなくなってきている。また学究的にも、これまでヒトのように表情を作ることを目指したアンドロイドの開発が続けられてきたが、いまだヒトのありとあらゆる表情を自由自在かつ自然に表現するまでには至っていない。

これは、ヒトの頭部と同等の限られたスペースしかないアンドロイドの頭部に、ヒトと遜色のない表情を作り出せるメカニズムを組み込むことが技術的に容易ではないということが挙げられる。また、ヒトの表情筋の動きを完全再現できるメカニズムを構築できたとしても、違和感のない自然な表情を作るためのモーションを作る必要もある点も難しい課題とされている。

もし、近い未来においてアンドロイドが実社会に進出し、ヒトと共生していくためには、感情を伝える主要メディアとして表情を活用する必要があるはずだが、これまでこうしたアンドロイドの表情に関する研究において、ヒトのデータに基づいて表情筋の動きを精緻に再現し、その妥当性を心理実験で厳密に検証した例まではなかったという。

そこで研究チームは今回、ヒトの解剖学と心理学の知見に基づいたアンドロイドの頭部を開発し、「Nikola」と命名。そして、Nikolaの表情の妥当性を3つの心理学実験で検証することにしたという。

1つ目の研究では、Nikolaが作り出した表情に対する、表情の専門家による評価を実施。作り出された表情は、眉を寄せたり口角を上げたりなど17種類で、それらの表情に対し、専門家は心理学研究で用いるヒトの表情筋活動の評価方法「顔面動作符号化法」を用いて評価を行った結果、すべての表情筋がヒトと同様の動きのパターンであることが証明されたとする。

(上)アンドロイドNikolaの基本6感情の表現。(下)アンドロイドNikolaの17個の個別表情筋の動き。心理学研究で用いられる顔面動作符号化法により専門家によって評価がなされ、ヒトと同様の動きのパターンであることが証明された (出所:理研Webサイト),A@Nikola|

2つ目は、6つの基本感情(怒り・嫌悪・恐怖・幸福・悲しみ・驚き)の表情をしたNikolaの各画像を用いて、一般参加者30人を対象に、感情を認識できるかどうかの実験を実施。その結果、統計的に有意なレベルで、すべての感情が適切に認識されることが示されたとする。

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    Nikolaの基本6感情の画像に対する一般参加者による認識結果。統計的に有意なレベルで感情が認識されることが示されたとする (出所:理研Webサイト)

3つ目は、Nikolaが基本6感情の表情を4つの速度(0.3秒、0.5秒、1.0秒、2.0秒)で表出する動画を作製し、それに対し、一般参加者30人がそれぞれの「表情の自然さ」の評価を行うというもので、その結果、たとえば「驚きの表情」は早い方が自然であるが、「悲しみの表情」は遅い方が自然であるなど、ヒトの表情の場合と同様に、Nikolaにおいても感情によって速度の影響が異なることが示されたという。

  • Nikola

    (上)Nikolaの動的表情の例。無表情から幸福な表情への変化。(下)一般参加者による自然さの評定結果。ヒトの表情の場合と同様に、スピードを変化させることで表情ごとに評定が変わることが示された。たとえば驚きや嫌悪、怒りの表情は早い方が自然で、悲しみの表情は遅い方が自然 (出所:理研Webサイト)

今回の成果を踏まえ研究チームでは、今後、アンドロイドNikolaは感情コミュニケーションを調べる社会心理学実験で役立つことが期待されるとしているほか、統制された現実において感情コミュニケーションを調べることが可能になることが期待されるともしている。