古民家のメリットとデメリット

伝統的な木造民家(以後、古民家)は限りある地域資源を活用し、自然から身を守ることと快適な生活環境の共存をはかる目的で造られてきた。

古民家が立ち並ぶ一部集落では、地域風土が醸し出す独自の雰囲気をまとっており、至るところに歴史文化を感じることができる。長きに渡りその環境を持続させてきた点を考慮すると、古民家には相応の環境調整能を有しているものと推察される。

古民家の特徴は夏期の高温多湿に配慮した造りになっていることである。気密性が低い、開口部が大きい、木造軸組工法であるといった日本を象徴する古民家の特徴は、まさに夏期の住みやすさを軸にデザインされている。

一方で、冬期の住みにくさが古民家の欠点としてよく挙げられる。

これは「暖」のとりかたが根本的に変化したためでもある。かつては囲炉裏やこたつなど限定空間かつ局所的な手法によって「採暖」をしていたが、現在では「暖房」という家全体を暖めるようになった。

したがって、現代では「暖房」という概念のもと高気密高断熱性に優れた住宅が普及し、それに伴って現代人が要求する性能も、冬期の室内環境に配慮した古民家であることが前提となりつつある。つまり古民家に「高気密・高断熱」という性能を与え、冬期での生活を少しでも快適にしようとうたうものである。

古民家の冬期における室内環境向上と歴史的景観保存を両立させる手法は、断熱改修やリノベーションが主流である。

近年では新型コロナウイルス感染症拡大によってリモートワークが増え、地方移住への関心を寄せる人も増加している。そのなかで住処として古民家を選択する人も多いのではないだろうか。

そこで今回は、現代技術の手を加えた古民家の、冬期における室内温熱環境改善効果について紹介したい。

断熱改修・エアコン・床暖房を組み合わせた古民家の温熱改善効果

冬期における古民家の問題として以下のようなものが挙げられる。

  • 暖房停止後の室温低下が急激である
  • 暖房部屋と非暖房部屋の温度差が大きい
  • 電気ストーブや電気コタツによる暖房では床付近の温度が低く足元が寒い

これらの解決と現代住宅と同等の室内環境を実現するために、外壁全体に断熱材を覆い気密化をはかった古民家改修事例もあるが、相当なコストがかかるため現実的とは呼べない。

したがってコストに制限がある場合、床下や天井裏に断熱材を設置する、あるいは開口部の断熱改修など部分的な改修により適切な改修計画を立てることが必要である。

また足元付近の寒さに関しては、エアコン、床暖房を活用することによって緩和効果が期待できる。

これらを踏まえ、古民家における有効な温熱環境改善手法としては、断熱補強に加えエアコン・床暖房を組み合わせた改修であると考えられる。

では、実際に山口市内のデイサービス施設である古民家福祉施設の改修前後における気温データを測定し、温熱環境改善効果を検証した事例の一部を解説しよう。

  • 古民家福祉施設の改修前後の平面図と計測点

    古民家福祉施設の改修前後の平面図と計測点(出典:日本建築学会技術報告集 第17巻 第36号 563-568)

  • 古民家福祉施設の周辺図

    古民家福祉施設の周辺図(出典:日本建築学会技術報告集 第17巻 第36号 563-568)

対象となる物件は、南棟西側にスロープと玄関を設け、既存の浴室、脱衣洗面、車いす用トイレを改修し、床および天井にそれぞれ100mm、200mmの断熱材(16K)を充填した。

また、高齢者の居場所である機能訓練室にも同様に床および天井に断熱材を充填し、南北の畳廊床下にも充填している。

既存の台所の利用を前提に北棟4畳半和室と6畳和室部分を食堂に改修し、床下に断熱材および温水式床下暖房と空調機を設置した。さらに、台所にも床・天井に断熱材を充填した。

南棟の6畳・8畳の続き間は将来的な障害児・児童預かりサービスや地域交流の場として計画され、本段階では空調機のみの設置に留めている。

改修前後における温熱環境を直接比較することは難しいが、断熱補強による気温変化の差異から、熱移動の減少や早朝の温度低下緩和の傾向を把握することは可能であると考えられる。また分析対象期間は、おおむね平年通りの平均気温と日積算水平面全天日射量を選択し、日射の影響が少ないと考えられる居室での計測を行っている。

計測概要は下の表を参考にしていただきたい。なお、温度の測定は垂直方向9点(床表面、床上0.05m、0.1m、0.5m、1.0m、1.5m、2.0m、2.7m、天井表面)で24時間連続計測を行い、床上1.0mを室温とした。

  • 計測概要

    計測概要(出典:日本建築学会技術報告集 第17巻 第36号 563-568)

  • 改修前後の気温の経時変化と明け方最低室温および最低外気温の関係

    改修前後の気温の経時変化と明け方最低室温および最低外気温の関係(出典:日本建築学会技術報告集 第17巻 第36号 563-568)

改修前の機能訓練室(東側和室)、食堂(東和室)および地域交流室(北側和室)をファンヒーターにより6時~22時の間欠運転(設定温度23℃)した結果(上記図8~10)、3室とも暖房開始直後から室温が上昇し始めるものの、室温が安定する状態(定常状態)に達するのは11時ころで5時間もかかっている。

定常状態における床付近温度と天井付近温度を比較すると、機能訓練室の床付近温度は約16℃、食堂は約15℃となっており室温と比較して約6℃低く、天井付近温度はそれぞれ約25℃、約23℃で、床付近と天井付近の温度差が約9℃もあり、ファンヒーターによる暖房の場合上下温度差が大きいことが分かる。また、夜間の暖房停止後の室温は3室とも急速に低下している。

次に改修後の結果を見ると(上記図11、12)、機能訓練室の定常状態の室温は約25℃と改修前とほとんど差がみられず、暖房停止後の室温低下傾向には大差はみられないが、天井付近の温度が僅かに上昇していることから断熱性が向上したことが示されている。

また、食堂の定常状態は約25℃で推移しており、改修前と比較し外気温が4℃低いにもかかわらず約5℃室温が高くなっており、床と天井の断熱性が向上したことが室温上昇に寄与していることが示された。

  • 改修後食堂の床暖房とエアコン併用運転時の気温の経時変化

    改修後食堂の床暖房とエアコン併用運転時の気温の経時変化(出典:日本建築学会技術報告集 第17巻 第36号 563-568)

最後に、食堂に設置した床暖房とエアコン併用運転時の気温の経時変化をみてみる。床暖房(運転時間6時~22時)とエアコン(運転時間6時~10時、設定温度22℃)運転時には、6時の外気温は低いものの、暖房開始直後から床表面温度と室温な上昇し始め、1時間後には室温約24℃に達している。また、7時~10時の間、室温は約25℃の定常状態に保たれている。エアコン停止後の室温は低下するものの、床暖房停止直後まで約20℃の定常状態に保たれており、床暖房とエアコン併用運転による改善がみられる。

これらをまとめると以下のようになる。

改修前の食堂・機能訓練室は室温が定常状態になるのに約5時間要し、上下温度差が大きく暖房停止後の気温低下が著しいが、改修後は断熱性の向上により、外気温との温度差が改善されている。

床暖房エアコン併用運転時には、暖房直後から十分な暖房効果が得られた。

つまり、改修にかけられるコストに制約がある場合、部分的な断熱改修・エアコン・床暖房の組み合わせによって古民家の室内温熱環境が改善されるといえるだろう。

今回の事例は、報告されている一部について解説したが、もっと詳しく知りたい人はぜひ出典元をみてみると良いだろう。この他にも古民家に関する研究や報告は多く存在し、そちらも興味深い結果が得られている。

古民家の購入や改修を検討している人は、ぜひこの記事を参考にしていただき、有意義なものにしていただけると幸いである。