金沢大学、名古屋大学(名大)、東北大学の3者は12月6日、複数の科学衛星で同時計測された電磁波とプラズマ粒子データなどを用いて、宇宙の電磁波が発生する領域を明らかにすると同時に、目には見えない「電磁波の通り道」の存在を突き止め、電磁波が地上へと伝わる仕組みを解明したと発表した。

同成果は、金沢大 理工研究域 電子情報通信学系の松田昇也准教授、金沢大 学術メディア創成センターの笠原禎也教授、名大 宇宙地球環境研究所の三好由純教授、東北大大学院 理学研究科の笠羽康正教授を中心に、米・コロラド大学、米・ミネソタ大学、JAXA 宇宙科学研究所、京都大学、九州工業大学、米・ロスアラモス国立研究所、米・ニューハンプシャー大学、情報通信研究機構、国立極地研究所、カナダ・アルバータ大学の研究者も参加した総勢20名の国際共同研究チームによるもの。詳細は、地球科学分野を扱う学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。

地球周辺の宇宙空間では、絶えずさまざまな種類の電磁波が自然発生し、「波動粒子相互作用」と呼ばれる物理過程によって、宇宙を満たすプラズマ環境を変動させることが知られている。特に、大規模な太陽フレアによって宇宙嵐が起きると、これらの電磁波がより活発に発生することから、さまざまな被害が生じる恐れがある。

そうした被害を防ぐためには、電磁波が宇宙でどのように生じ、そしてどのようにして地上へと伝わるかを把握する必要があるが、宇宙での電磁波は、発生した場所から遥か遠くまで伝わるという特性があるため、電磁波計測が可能な科学衛星1機による「単地点観測」だけでは、電磁波が空間的に広がって存在する様子や、現象がどこで発生してどのように伝わってきたか、といった謎を解明することが難しいとされている。

今回の研究で着目された「イオン波」は、宇宙のプラズマ環境変動をコントロールする重要な電磁波の1つであり、発生したイオン波は地球の磁力線に沿って南北方向に伝搬すると考えられている。しかし、発生領域の具体的な空間サイズや、伝搬経路がどのように形成され、どのように伝わっていくかといった三次元的な様相は未解明のままだった。

そこで今回、国際協力により、ジオスペース探査衛星「あらせ」と、同様の計測機能を持った米科学衛星「Van Allen Probes」による宇宙からの観測と、日本が世界各国に展開する「PWING誘導磁力計ネットワーク」と、カナダが北米を中心に展開する「CARISMA誘導磁力計ネットワーク」による地球からの観測を連携させ、イオン波を異なる場所から同時観測するという試みが行われた。

その結果、2019年4月18日に、4拠点によるイオン波の同時多地点観測に成功。それらの観測データの比較が行われたところ、比較的広い空間範囲に励起したイオン波のうち、ストロー状の“通り道”に存在する限られた波だけが、宇宙空間のほかの場所や地上へと伝搬していることが判明したという。

また、地磁気赤道付近を周回するVan Allen Probesは、地上の2拠点とほぼ同一の磁力線上に留まり、これらの拠点では特徴が類似するイオン波を同時に観測することにも成功。地磁気赤道から地上へとイオン波が伝わる経路が存在することが示されたとする。

  • プラズマ

    電磁波の通り道を同時多地点観測する様子 (c) ERGサイエンスチーム(出所:金沢大Webサイト)

一方、地磁気赤道と地上との間(地磁気緯度約30度の位置)の軌道を周回するあらせは、ほかの3拠点とほぼ同一の磁力線を横切りながら、やや広い空間の観測を実施。4拠点がほぼ同一の磁力線上に位置するタイミングでは、同じ特徴を持ったイオン波が同時に観測され、やはりイオン波が伝わる経路が形成されていることが判明したほか、その磁力線からわずかに離れると、観測されるイオン波の特徴が大きく異なることも確認されたという。

  • プラズマ

    イオン波を4つの拠点で同時に捉えた観測結果 (出所:金沢大Webサイト)

これらの結果から、同一のイオン波が地磁気赤道から地上に伝搬する“電磁波の通り道”が同定され、その空間スケール(電離圏高度における緯度方向距離)が80km程度であることが判明。イオン波を伝えるストロー状の経路が、地磁気赤道から地上では約5万kmの長さとなるのに対し、経路の断面は1000分の1ほどのスケールしかなく、広い宇宙空間で極めて局所的に伝搬経路が形成されることが明らかにされた。

  • プラズマ

    あらせ、Van Allen Probesの衛星軌道と地上観測拠点の位置関係 (出所:金沢大Webサイト)

さらに、精密なプラズマ粒子計測から、イオン波が電磁波の通り道を伝わっていく過程で冷たいプラズマにエネルギーを与え、周辺のプラズマ環境を変化させている様子を確認することに成功。イオン波は「プロトンオーロラ」と呼ばれる種類のオーロラを光らせることでも知られているが、今回の成果は、プロトンオーロラのもととなるエネルギーが、宇宙から地上へと伝わる経路が明らかにされた、と解釈することもできると研究チームでは説明している。

なお、今回の研究成果を踏まえると、宇宙のプラズマ環境変動がさまざまな場所で同時に起きるメカニズムを明らかにすることができるようになると研究チームでは説明しており、安全な宇宙利用に向けた「宇宙天気予報」の精度向上につながることが期待されるとしているほか、研究チームのメンバーの中には、水星に向けて航行中の水星磁気圏探査機「みお」や、2022年打ち上げ予定のESAを中心に日米も協力する木星氷衛星探査機「JUICE」に搭載する電磁波計測装置の開発も担当している研究者もいるとのことで、今回の研究成果を踏まえて、地球以外の惑星でも電磁波が発生し伝わっていく仕組みを解明し、宇宙環境変動の網羅的な理解と普遍性の解明に向けた研究を進めていくとしている。