2021年9月4~8日にかけて、英海軍の空母「クイーン・エリザベス」が、米海軍横須賀基地に寄港した。同艦を基幹とする任務群は「CSG21(Carrier Strike Group 21)」と称する任務航海の途上にある。5月末にイギリス南部のポーツマスを出港して、ようやく東アジアまでやってきた。

多国籍任務群「CSG21」とは?

この任務群は英海軍が主体だが、実は多国籍編成である。顔ぶれは以下の通りだ。

  • 空母「クイーン・エリザベス」(英海軍)
  • 駆逐艦「ディフェンダー」(英海軍)
  • 駆逐艦「ダイヤモンド」(英海軍)
  • フリゲート「ケント」(英海軍)
  • フリゲート「リッチモンド」(英海軍)
  • 潜水艦(艦名非公開。英海軍)
  • 補給艦「タイドスプリング」(英海軍)
  • 補給艦「フォート・ヴィクトリア」(英海軍)
  • 駆逐艦「ザ・サリヴァンズ」(米海軍)
  • フリゲート「エヴァーツェン」(蘭海軍)

そして、「クイーン・エリザベス」は横須賀を出港した後で、共同訓練「パシフィック・クラウン21-3」を実施したが、これには海上自衛隊の護衛艦「いずも」「いせ」、それと加海軍のフリゲート「ウィニペグ」が参加した。一方、CSG21任務群のうち「ダイヤモンド」「ケント」「リッチモンド」「ザ・サリヴァンズ」は外れている。

  • 9月8日に横須賀を出航して、浦賀水道を南下する「クイーン・エリザベス」

さて。多国籍任務群といっても、単にフネを集めて一緒に動かすだけの話では済まない。まず、それぞれの艦が任務群指揮官の命令に合わせて動かなければならない。軍艦は商船と違い、複数のフネが集まって陣形を組むのが前提である。しかも陣形の種類はいろいろあり、走りながら陣形を変換するのは日常的なことだ。

また、洋上では英海軍の補給艦が他国の艦に燃料や物資を補給する場面もあり得る。逆に、任務群が米海軍の基地に入港すれば、米軍から補給を受けることになる(海上自衛隊の基地に入港すれば、海上自衛隊からの補給になる)。

  • 蘭海軍のフリゲート「エヴァーツェン」は横須賀に寄港した際、海上自衛隊側の岸壁に着けていた

多国籍軍の任務にはプロトコルが必須

すると、何が問題になるか。

例えば、陣形を組んだり、変換したりする場面を考えてみる。複数の軍艦が陣形を組む場合は、基準艦を1隻決めて、さらに陣形の種類を指令する。単縦陣なら、全部の艦が基準艦の後ろに一直線に並ぶが、その際の間隔も決まっている。梯形陣なら斜め、単横陣なら横一列、輪形陣なら基準艦を囲むように円形に、といった布陣になる。

すると、「次の陣形は○○、基準艦は△△」という指令を出さなければならない。指令を出して予告した後で、それを発動すると、基準艦以外の艦が一斉に、新たな位置につくために動き出す。

ということは、多国籍の任務群で陣形運動をするには、こうした情報を伝達するためのプロトコルが統一されていなければならない。同じ信号なのに、国によって意味が違ったのでは事故の元である。

次に燃料の補給。クルマに給油口が付いているのと同様に、艦艇にも燃料補給用の受け口が付いている。洋上補給であれば、燃料を受け取る艦と、供給する側の補給艦が近接・並走しながら実施する。まず、補給艦と相手の艦の間でワイヤーを渡して、そこにぶら下げる形で給油蛇管を延ばし、相手の艦の給油口に接続する。

ということは、ワイヤーや蛇管を渡すための手順、蛇管の先端に付いているプローブと受け口の形状、使用する燃料の種類を揃えておかなければならない。現在、いわゆる西側諸国であれば艦艇用燃料は軽油で、NATO規格番号は「F-76」である。ただし市中のガソリンスタンドで売っている軽油と同じものではなく、引火点が少し高い。

  • 洋上給油の際に使用する受け口。給油艦から蛇管を伸ばしてきて、先端のプローブを受け口に突っ込む仕組み(写真ではカバーに覆われている)。もちろん、規格が合っていなければつながらない

燃料に限らず、補給物資を異なる国の間でやり取りする場面もある。今はバーコードやRFID(Radio Frequency Identifier)を使って物品管理を行うが、品目ごとにつけるコードの内容が国によって違っていたのでは、これまた混乱の元である。