米国のロケット開発スタートアップの「ファイアフライ・エアロスペース」は2021年9月3日(日本時間)、自社開発した「アルファ」ロケットの初の打ち上げ試験に挑んだ。
しかし、打ち上げ直後に4基ある第1段エンジンのうち1基が停止。打ち上げから約2分半後に飛行中断が決定され、指令破壊された。
同社は「豊富な飛行データを得ることができ、飛行は大成功でした」と前向きなコメントを発表している。
アルファ・ロケットの初打ち上げ
アルファ(Alpha)はファイアフライ・エアロスペースが開発したロケットで、全長29m、最大直径2.0m。2段式を基本とし、推進剤は1段目、2段目ともに液体酸素とケロシンを使う。
機体全体には炭素繊維複合材が用いられており、とくにタンクはライナー(内殻)レスとなっている。
1段目には「リーヴァー1(Reaver 1)」エンジンを4基、2段目には「ライトニング1(Lightning 1)」エンジンを1基装備。両エンジンは設計や部品が最大限共通化され、低コスト化が図られている。
打ち上げ能力は、高度200kmの地球低軌道に1000kg、高度500kmの太陽同期軌道に630kg。小型・超小型衛星の打ち上げを目的とした超小型ロケット(Micro Launcher)のひとつである。打ち上げ価格は、ロケット1機を専有した場合(Dedicated launch)は1500万ドルとしている。また、月2回の打ち上げが可能だという。
これまでエンジンの地上燃焼試験や、発射台に立てての試験などが繰り返されてきており、今回がアルファにとって初の打ち上げ、またファイアフライにとっても初めてのロケット打ち上げだった。
ロケットは日本時間9月3日9時59分(米太平洋夏時間2日18時59分)、カリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ宇宙軍基地から離昇した。
ロケットは当初、順調に飛行していたものの、離昇から約15秒後、4基ある第1段エンジンのうち第2エンジンが停止した。ただしエンジンそのものの故障ではなく、タンクからエンジンへ流れる推進剤のメイン・バルブが閉じたためであり、エンジンは爆発することなく単に推力を失っただけで、ロケットはそのまま飛行を続けた。
しかし、エンジン1基分の推力を失ったことで上昇速度が遅くなり、計画ではロケットは離昇から67秒後にマッハ1に到達する予定だったが、今回の飛行では離昇から2分20秒後にようやく到達した。また、第2エンジンの偏向ノズルによる姿勢制御ができなくなったことで、機体の姿勢を維持することができなくなった。亜音速域では3基のエンジンだけでも制御が効いたものの、制御が最も難しくなる遷音速域から超音速域でいよいよ効かなくなり、機体はもんどり打つように回転した。
これを受け、地上の安全監理チームは飛行中断を決断。ロケットの飛行中断システム(FTS)を起動する信号を送り、機体は指令破壊された。落下物による被害などはなかった。
なお、指令破壊の直前まで機体の構造は健全であり、3基のエンジンも正常に燃焼を続けていたという。
ロケットには民間企業や大学などが開発した、計11機の超小型衛星が搭載されていたが、ロケットとともに失われることとなった。
打ち上げ後、ファイアフライは声明を発表。「第2エンジンが早期に停止した理由を理解するため、また飛行中のその他の関連する予期せぬ出来事を発見するため、徹底的な調査に着手しました。調査終了後、今回のトラブルの原因を発表する予定です。米連邦航空局(FAA)と宇宙軍のパートナーと協力し、できるだけ早く、アルファの2回目の飛行試験を実施したいと考えています」と語っている。
そして「軌道へは到達できませんでしたが、今日この日は、私たちがロケットを製造して打ち上げることができる企業として、ひとつのマイルストーンに到達したことを意味します。私たちにとっては大きな前進であり、またアルファが次の打ち上げで軌道に到達できる可能性を大きく高めるための、豊富な飛行データを得ることができました。今回の飛行は大成功でした」と、前向きなコメントも発表している。
ファイアフライ・エアロスペース
ファイアフライ・エアロスペースは、テキサス州オースティンに拠点を構える企業で、2014年に設立された。
創業者のトーマス・マークシック(Thomas Markusic)氏は、かつてスペースXやヴァージン・ギャラクティック、ジェフ・ベゾス氏の宇宙企業ブルー・オリジンなどで働いていた経歴を持つ。
同社は当初、エアロスパイク・ノズルを用いるなど、アルファにユニークな設計を採用していたが、エンジンの仕様や使用する推進剤が二転三転するなど、開発は難航。さらに、マークシック氏がヴァージン・ギャラクティックを離れた際に機密情報を持ち出したと告発されたり、資金調達に失敗したりし、2016年12月には活動停止に陥った。
その後、資産の売却、破産と精算手続きなどを経て、2017年にウクライナの実業家Max Polyakov氏の企業「ノウスフィア・ベンチャーズ(Noosphere Ventures)」の出資により復活。社名も従来のファイアフライ・スペース・システムズから、現在のファイアフライ・エアロスペースへと変更。そしてロケットのコンセプトを見直すなどし開発が再開され、現在に至っている。
小型・超小型衛星の開発や、それを使ったビジネスがブームになっていることを背景に、アルファのような超小型ロケットの開発は近年活発になっており、ライバルがひしめき合っている。すでに米国のロケット・ラボ(Rocket lab)やヴァージン・オービット(Virgin Orbit)はロケットの運用も始めている。
アルファの1機あたり1500万ドルという打ち上げ価格は、ロケット・ラボの「エレクトロン(Electron)」ロケットの約750万ドルよりも高い。ただし、アルファの打ち上げ能力はエレクトロンの2倍強と大きいため、衛星1機あたりで換算すればほぼ同等となり、またエレクトロンでは打ち上げられない、ややサイズの大きな小型衛星の打ち上げもできるという強みもある。
すでに米国航空宇宙局(NASA)をはじめ、民間企業などからも複数の打ち上げを受注しており、市場からの期待も高い。
打ち上げ場所としては、今回打ち上げられたヴァンデンバーグ宇宙軍基地のほか、フロリダ州にあるケープ・カナヴェラル宇宙軍ステーションのSLC-20も使う。
同社ではアルファのほか、地球低軌道に約8tの打ち上げ能力をもつ中型ロケットの「ベータ」の開発構想ももっている。また、「ガンマ(Gamma)」と名付けられた有翼のスペースプレーンや、月着陸機などの開発も進めている。
参考文献
・Firefly's First Test Flight Lasts More Than Two Minutes, With Successful Liftoff and Progression to Supersonic Speed - Firefly Aerospace
・Firefly Alpha FLTA001 - YouTube
・Launch-alpha - Firefly Aerospace