慶應義塾大学(慶大)と医学生物学研究所(MBL)は8月18日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する中和抗体を自動測定できるキットの開発に成功したと共同で発表した。

同成果は、慶大医学部 臨床検査医学教室の村田満教授、同・涌井昌俊准教授、慶大 リウマチ・膠原病内科学教室の竹内勤名誉教授、同・竹下勝助教、慶大 先端医科学研究所 遺伝子制御研究部門の佐谷秀行教授らの研究チームによるもの。

2020年末に、慶大、国立感染症研究所(感染研)、JSR、MBLの4者は共同で、通常の実験室で使用可能なSARS-CoV-2に対する中和抗体測定キットを開発を開発したことを明らかにしていたが、手動での測定方式であったため、多検体の処理能力に課題があったという。そこで研究チームは今回、ワクチンの普及に伴う多検体の中和抗体測定という需要に応えるため、キットの自動化を試みたという。

今回の中和抗体自動測定キット(自動測定キット)の測定試薬には、CLEIA(Chemiluminescence Enzyme Immunoassay)が原理とされている。

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    新型コロナウイルスの侵入経路の模式図 (出所:慶大プレスリリースPDF)

SARS-CoV-2がヒト細胞に侵入する際に用いる「スパイクタンパク質」のうち、特に重要な「受容体結合部位(BRD)」を作製して磁性粒子に結合させ、それに対して患者の血清と酵素標識したヒト細胞膜上の「ACE2タンパク質」を順に反応させ、その後、発光基質が添加され、酵素の発光基質の分解で生じる発光量が自動的に測定されるというものだという。

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    CLEIA法による中和抗体の測定原理 (出所:慶大プレスリリースPDF)

中和抗体が存在すると、その量に応じてRBDとACE2の結合が阻害され、発光量が少なくなる。そのため、同試薬によって患者の血清中に存在する中和抗体がRBDとACE2の結合をどの程度阻害するのか数値化することが可能となったという。

また自動測定キットはLSIメディエンス社製の国産自動臨床検査装置STACIAに搭載可能であり、1時間あたり最大で270テストが可能かつ、サンプリングから結果が得られるまで19分以内と迅速に測定を実施することが可能。この検査方法はウイルスを含まないため、BSL1レベルの通常の実験室で使用でき、安全性が高い方法である点も特徴的だという。

さらに、感染研で確立されたプロトコルに従い、SARS-CoV-2感染者の血清の中和抗体価を測定した試料を用いて、自動測定キットとの結果の比較を行った結果、実際のウイルスを用いた感染中和試験結果と自動測定キットの測定結果は強く相関しており、同キットで中和抗体が測定可能であると考えられるともしている。

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    自動測定キットとウイルス感染中和試験との相関解析 (出所:慶大プレスリリースPDF)

日本でもワクチン接種が進んでいるが、接種後の抗体価は時間とともに少しずつ減少していくとされる。また、ワクチン接種後に感染した人の抗体価は感染しなかった人の抗体価より低いといった報告も出てきているという。今回の自動測定キットでは少数検体から多数検体まで幅広く測定が可能であり、個々の患者の中和抗体の評価、ワクチン後の抗体価の推移、最適なワクチン接種間隔を調べる研究など、幅広い有用性が考えられるとしている。