自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター(ABC)ならびに国立天文台は4月27日、すばる望遠鏡の新たに搭載された赤外線ドップラー装置「IRD」を用いた観測により、“ウルトラホットジュピター”と呼ばれる巨大ガス惑星タイプの系外惑星「WASP-33b」の昼側の大気中において「ヒドロキシラジカル(OH)分子」を発見したと発表した。

同成果は、ABCのステバヌス・K・ヌグロホ博士、東京大学 地球惑星システム科学講座の河原創助教、アストロバイオロジーセンター長の田村元秀教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

WASP-33bは、主星WASP-33の極至近距離を公転する巨大ガス惑星で、主星との距離は太陽~水星よりも短く、主星の半径の4倍ほどしかない。しかも、主星は表面温度の高いA型の巨星として知られ、至近距離からより高温であぶられ続けた結果、表面温度が2500℃以上に達していると考えられている。

一般的なホットジュピターは1000~1500℃ぐらいであり、2500℃以上という高温は別格。赤色矮星は表面温度が低いものだと2000℃ほどで、晩年の恒星の姿である赤色巨星も表面温度は3000~3500℃程度であり、恒星でもないのに大半の金属が溶けてしまうような高温であることを鑑みれば、ウルトラホットジュピターと呼ばれることも納得というものである。

今回、太陽系外の惑星でOHが検出されたが、このことは惑星大気の化学的な性質を詳細に理解することができるようになったことを示したという点で意義があるという。

これまで、WASP-33bの大気からは鉄や酸化チタンのガスは検出されていたが、今回OHが発見されたことで、同惑星の大気中で水蒸気と一酸化炭素との相互作用を通し、大気組成を決める上で重要な役割を果たすという。

WASP-33bにおけるOHの大半は、惑星大気の高い温度により水蒸気が壊されることで生じると考えられている。これまでの観測から、水蒸気は少ないと国際共同研究チームは見ており、惑星大気が極端な高温状態により水が解離すると推測されるという。

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    太陽系とWASP-33星系との比較。WASP-33bは主星の半径の4倍ほどの距離で公転している。なおかつ、常に同じ面を主星に向ける潮汐ロックの状態になっており、あぶられ続けている昼の側は2500℃を超える。なお、図中の惑星の軌道の大きさのスケールはわかりやすくするために誇張されており、正確ではない。(上図)(c) WP、CC BY-SA 3.0、Wikimedia Commons、(下図)(c) アストロバイオロジーセンター (出所:ABC Webサイト)

2018年2月にファーストライトを迎えたIRD(InfraRed Doppler)は、赤外線ドップラー装置、または近赤外線高分散分光器ともいわれ、M型星(赤色矮星)のハビタブルゾーンを公転し、水が液体で存在する可能性が期待される惑星を探すことを最大の目標として開発された。

そのため、IRDは恒星や惑星に存在する原子や分子をスペクトルの中に吸収線として検出することが可能であるが、恒星の方が圧倒的に大きいため、惑星の大気からのかすかな光を見分けるのは難しい。そこで、ドップラー効果を利用して恒星からなのか惑星からなのかを区別する手法を採用しているという。

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    WASP-33星系の想像図。星の半径と軌道距離のスケールは誇張されており、正確ではない点に注意 (c) アストロバイオロジーセンター(出所:ABC Webサイト)

現代天文学の観測すべき目標の1つは、“地球のような”惑星を発見することだ。今回はウルトラホットジュピターが対象だったが、IRDなどの観測装置をさらに開発していくことで、より小さくて、より冷たい惑星、最終的には第2の地球ともいえるような惑星の大気を調査できるようにしていくと国際共同研究チームでは説明している。

また、今回のような観測は、現在建設が進められているTMT(30m望遠鏡)やELT(欧州超大型望遠鏡)などの次世代超大型望遠鏡で観測するためのテストベッドになるとしており、今回の手法を発展させることで、人類は宇宙で孤独な存在なのかそうではないのか、その問いに対するヒントを得られるかも知れないと国際共同研究チームではコメントしている。