政府が推進する大型研究開発プログラム「ムーンショット型研究開発制度」の新たな目標を検討する21チームを、科学技術振興機構(JST)が決定した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で変容する社会像を明確化し情勢の変化に対応すべく、設定済みの7つに加え、新たな目標を設けるためのもの。一方、既存の7目標は全ての研究開発プロジェクトが決まり、推進体制が整った。

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    「ムーンショット型研究開発制度」の3種類のロゴマーク(内閣府提供)

21チームはJSTが1月19日に発表した。各チームは今後約半年をかけ、将来の社会経済の課題やあるべき姿について議論や調査を進める。目標の達成により実現したい2050年の社会像、取り組むべき課題、同年からさかのぼって考える2030年の具体的な達成目標、達成に至るシナリオ、検証可能な達成の基準などを検討し、報告書にまとめる。トヨタ自動車前社長の渡辺捷昭氏を総括とする「ビジョナリーリーダー」がこの結果を評価し、これらのうち数件を目標候補に選定。さらにその内容を踏まえ、政府の総合科学技術・イノベーション会議が1~2件の目標を最終決定する。

昨年9~11月に公募し、ビジョナリーリーダーが外部専門家などの協力を得ながら書類選考と面接を実施。応募した129チームから21チームを決定した。公募に際しJSTは、将来を担う人材による柔軟で自由なアイデアや、国内外の多様な知見を取り入れることが重要との観点から、年齢は不問としながらも若手によるチームを推奨した。

また、日本医療研究開発機構(AMED)は2月5日、目標7「2040年までに、100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現」について、研究開発プロジェクトを率いる5人のプロジェクトマネージャーを選定したと発表した。これで既存の7目標については、全ての研究開発プロジェクトが出そろう形となった。

ムーンショットは「日本発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を、司令塔となる総合科学技術・イノベーション会議の下、関係省庁が一体となって推進する新たな制度」として、2018年に創設された。その後、目標の選定や運営方法などが同会議の有識者会議(ビジョナリー会議)の場を中心に検討された。昨年7月までに設定された7目標のうち、JSTが4つを、AMEDと新エネルギー・産業開発総合開発機構(NEDO)、生物系特定産業技術研究支援センター(BRAIN)がそれぞれ1つを担当している。

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    「ムーンショット型研究開発制度」の概要(内閣府提供)

新目標を検討する21チームの調査研究課題とチームリーダーは次の通り(リーダー名の五十音順)。

▽「地球が安心できる地球をつくろう。」秋山肇(筑波大学人文社会系助教)

▽「動物由来の未知感染症に対するマネジメントシステムを構築し、感染症にレジリエントな社会を実現する」安藤清彦(農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究部門主任研究員)

▽「緑の革命2.0」石橋勇志(九州大学大学院農学研究院准教授)

▽「地域海洋資源が支える社会経済の多極化による新海洋国家=日本実現が導く、飢餓と貧困なき全球への始動」石村学志(岩手大学農学部准教授)

▽「宇宙利用のハードウェア・ソフトウェアイノベーション~宇宙を誰もが自由にアクセス・利用できる空間へ」稲守孝哉(名古屋大学大学院工学研究科准教授)

▽「人間知×機械知×自然知によるFlexインフラで、柔軟で安心な『場』と多様な幸せのカタチを」今西美音子(竹中工務店技術研究所研究員)

▽「Infrastructure Projection Anywhere技術でポータブルなインフラを実現」上野真(宇宙航空研究開発機構航空技術部門主任研究開発員)

▽「年齢、性別、国籍の制約なく良好な人間関係を時空を超えて構築する孤独ゼロのウルトラダイバーシティ社会」岡田志麻(立命館大学理工学部准教授)

▽「Psyche Navigation Systemによる安寧と活力が共存する社会の実現」熊谷誠慈(京都大学こころの未来研究センター准教授)

▽「2050年までに自然と社会が調和的に接続され相利的に発展する強靭な生態―社会共生体を実現」近藤倫生(東北大学大学院生命科学研究科教授)

▽「思考転写、合意形成、融和を促進する科学技術により、個人や集団の分断が克服され『人類の調和』が実現」佐久間洋司(大阪大学基礎工学部学生)

▽「ヒューマン・セントリックな都市の再定義―全人類の自己実現追究」武部貴則(横浜市立大学先端医科学研究センターコミュニケーション・デザイン・センター長、特別教授)

▽「パーソナルグリッドで快適生活を地球でも宇宙でも」長澤兼作(横浜国立大学先端科学高等研究院特任教員、准教授)

▽「DIGITAL BIOSPHERE(デジタル生物圏):『真に新しい物理』が拓くバイオ産業のゲームチェンジ」西原禎文(広島大学大学院先進理工系科学研究科教授)

▽「2050年までに、音楽による感動共創によって人類社会の持続と幸福を実現し地球文化の普遍性を宇宙に響鳴」西本智実(指揮者・舞台演出、慶應義塾大学SFC研究所上席所員)

▽「マルチスケールなエネルギー収穫と貯蔵によるHO・DO・HO・DO の分散ネットワーク社会で第二の故郷を!」能村貴宏(北海道大学大学院工学研究院准教授)

▽「若手研究者の分野横断的連携により実現される『診断から治療を自宅で受ける究極の個別化医療』」樋口ゆり子(京都大学大学院薬学研究科准教授)

▽「サイボーグ技術によって身体を再定義し、自己の能力を従来の人の限界を超えて高め誰もが自己実現できる社会」藤原幸一(名古屋大学大学院工学研究科准教授)

▽「2050年までに、台風の『脅威』を『恵み』に変換し資源活用することで安心かつ安定した持続可能な社会を実現」筆保弘徳(横浜国立大学教育学部教授)

▽「2050年までに、気象を制御し、豪雨や台風などの気象災害の恐怖から解放された社会を実現」三好建正(理化学研究所計算科学研究センターチームリーダー)

▽「望めば誰もが、将来に夢と希望を持って、子供を産み育てられる社会。」吉田慎哉(東北大学大学院工学研究科特任准教授)

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