フランスのロケット会社「アリアンスペース」は2020年11月17日(日本時間)、小型ロケット「ヴェガ」17号機(VV17)の打ち上げに失敗した。組み立てミスが原因である可能性が高いという。

ヴェガは昨年7月にも打ち上げに失敗。今年9月に飛行を再開し、打ち上げに成功したばかりだった。

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    ヴェガ VV17の打ち上げの様子。この約8分後にトラブルが起き、打ち上げは失敗した (C) Arianespace

ロケットは日本時間11月17日10時52分(現地時間16日22時52分)、南米仏領ギアナにあるギアナ宇宙センターから離昇した。第1段、第2段、そして第3段の燃焼は正常だったものの、離昇から約8分後、第4段エンジン着火後に飛行経路を逸脱。衛星の軌道投入に失敗した。

ロケットには、スペイン政府・産業技術開発センター(CDTI)の地球観測衛星「SEOSat-Ingenio」と、フランス国立宇宙研究センター(CNES)の地球観測衛星「タラニス(TARANIS)」が搭載されていた。

ヴェガの機体は、第3段機体の落下予定点に近い無人区域に落下した。被害などは報告されていない。

アリアンスペースによると、失敗直後の時点で入手可能なデータを使用して行った第一次解析の結果、第4段「AVUM」のエンジンの、「ノズル起動システム(nozzle activation system)」の組み立て時に誤りがあったことが原因である可能性が高いとしている。

ヴェガは全4段式のうち、1~3段目は固体ロケットだが、4段目のAVUMのみ液体ロケットとなっている。AVUMはヴェガの最終段として、衛星を必要な軌道速度まで加速させるほか、正確な軌道投入を行うことを目的としている。また、ロケットの2段目以降の飛行中における姿勢制御も担っている。

なお、ノズル起動システムとは、ノズルのアクチュエーターを含む制御システムのことだという。

アリアンスペースのCTOを務めるRoland Lagier氏は、「ミッション中に得られたテレメトリーのデータと、機体製造時のデータを分析した結果、2つの推力方向制御アクチュエーターのケーブルが、逆に取り付けられていた可能性が高い。片方のアクチュエーターに送られるはずのコマンドが、もう片方のアクチュエーターに送られることになり、制御不能となったものとみられる」と話す。

また、「これは設計上の問題ではなく、生産と品質管理における人為的ミスが重なったことが問題である可能性が高い」という。なお、ヴェガは昨年7月にも打ち上げに失敗しているが、「昨年7月の失敗と今回の失敗との間に関連はないものとみている」としている。

AVUMの全体の統合、試験はイタリアの航空宇宙メーカーのアヴィオ(Avio)が担当しているが、AVUMの構造部や電子機器は欧州のエアバスなどが製造を担当し、エンジンはウクライナのユージュノエが設計し、ユージュマシュが製造を担当している。このウクライナ製エンジンは「RD-869(またはRD-843)」と呼ばれ、推進剤に非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)と四酸化二窒素(N2O4)を使用し、最大5回の着火を可能としている。

ユージュノエではLagier氏のコメントを受け、「エンジンそのものは自社(ユージュノエ)が開発し、ユージュマシュが製造しているものだが、それをAVUMに取り付けるなどの組み立て作業はイタリア側で行われることである」とし、自社には責任がないことを示唆した声明を発表している。

また、11月18日には独立調査委員会が設立され、原因究明に向けた作業が開始された。欧州宇宙機関(ESA)の宇宙輸送系ディレクター、ダニエル・イノエンシュワ氏と、アリアンスペースCEOのステファン・イズラエル氏が共同議長を務める。

委員会では、「AVUMのノズル起動システム組み立て時に生じた問題を事前に検知し修正を施すことができなかった理由を明らかにし、ヴェガの打ち上げ再開に向けた是正措置を講じる」としている。

搭載されていたSEOSAT-Ingenioは、地球の陸域の高解像度画像を取得するために開発された衛星で、土地利用の監視、都市開発の計画、水資源の管理などへの利用が期待されていた。また、地表を横方向から見ることができ、3日以内に地球上のあらゆる場所の画像を撮影できる能力もあったことから、洪水や山火事、地震などの自然災害の発生時の状況把握への貢献も期待されていた。

もう1機のタラニスは、高度20~100kmの雷雨上空で発生するスプライトやブルー・ジェットなどの、発光・放射・電磁現象を宇宙から観測することを目的とした衛星だった。

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    ヴェガの解剖図。今回のトラブルは第4段のAVUMで発生したと考えられている (C) ESA - J. Huart, 2012

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    ヴェガのAVUM (C) ESA

2019年に続き2度目の打ち上げ失敗

ヴェガは、アリアンスペースが運用する小型の固体ロケットで、同社が運用する大型の「アリアン5」ロケット、中型の「ソユーズ」ロケットとともに、欧州の政府機関などの衛星打ち上げ需要を支え、さらに欧州内外の民間の衛星も打ち上げるなど、ビジネス面でも活躍している。

アヴィオがプライム・コントラクターとなり、欧州各国にある航空宇宙メーカーが部品を製造、供給している。

直径は約3mで、全長は約30m。高度700kmの太陽同期軌道に約1500kgの打ち上げ能力をもち、主に地球観測衛星や偵察衛星などの打ち上げに活用されている。

ヴェガは2012年に1号機が打ち上げられ、14号機まですべてが成功していたが、2019年7月11日に15号機(VV15)で初めて打ち上げに失敗した。このときは第2段の固体ロケット・モーター「ゼフィーロ23」に構造上の問題があったことが原因とされている。

アヴィオでは設計を修正し、2020年9月3日に16号機(VV16)の打ち上げに成功。飛行を再開した矢先に、今回の打ち上げ失敗が発生した。

今回の失敗がヴェガの今後にどのような影響を与えるのかはまだわからないが、予定されていた打ち上げ予定は、軒並み遅れることになろう。

また、失敗が相次いだことで、商業打ち上げに悪影響が及ぶ可能性もある。ヴェガは1回あたりの打ち上げ価格が約3700万ドルとされ、他の競合ロケットと比べて割高であるものの、打ち上げ成功率など信頼性の高さで市場から支持を獲得していた。しかし、昨年に続いて2度目の失敗を起こしたことで、インドの「PSLV」や、小型衛星のライドシェア(複数機の相乗り)打ち上げを行う米スペースXの「ファルコン9」などの、ヴェガの競合相手となるロケットに顧客が流れることも考えられよう。

なお、現在ヴェガの改良型である「ヴェガC」や「ヴェガE」の開発が進んでいるが、アリアンスペースによると、「まずは今回のVV17の組み立てのどの時点でどのような問題があったのかを徹底して究明する」としたうえで、「現時点で開発スケジュールへ影響はない見込み」とコメントしている。

また、アリアン5やソユーズの打ち上げ予定や、次期大型ロケット「アリアン6」の開発などへも、「現時点では影響はない見込み」だとしている。

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    打ち上げを待つヴェガ VV17 (C) ESA

参考文献

Vega Flight VV17: Source of anomaly identified; Inquiry Commission established - Arianespace
Arianespace - Flight Vega VV17 - SEOSAT-Ingenio / TARANIS: Mission failure - Arianespace
Vega Flight VV17 - Arianespace
https://www.yuzhnoye.com/press-center/news/copynews798.htmlVega - Arianespace