目標は人に寄り添うロボットの実現

パナソニックは1月25日、自社のロボット開発を加速させることを目的としたパートナーとの取り組みに関する説明会を開催。さまざまな分野に向けたロボットの開発を進めていることを明らかにした。

同社は「人に寄り添うロボティクス」によって、安心で快適な生活を実現することを目的に、ものづくり、家電、サービス・物流、介護・医療、農林水産、インフラ点検・災害対応などの分野に向け、ロボット技術の適用を目指してきた。しかし、より幅広い分野にロボット技術を適用させていくためには、市場のニーズの掘り起こしから実証、そして商品化までの開発サイクルをこれまで以上に高速化することが求められていた。

  • 人に寄り添うロボット

    人に寄り添うことで、従来以上にさまざまな分野での活用が期待されるロボット

そこで同社が考えたのが、オープンイノベーションと技術プラットフォームの両輪による開発の高速化。オープンイノベーションとして、社内のみならず、社外のロボット技術を含めて、カスタマの課題を解決することを目指していくことで、より広範な取り組みが可能になるという。

  • オープンイノベーションと技術プラットフォーム

    人に寄り添うロボットの実現の鍵となる2つの要素。オープンイノベーションという横展開と、社内における技術プラットフォームという縦展開

そうしたオープンイノベーションを実現する場が、2018年12月に東京と大阪に設置された共創型イノベーション拠点「Robotics Hub」だ。東京のRobotics Hubは、住友不動産汐留浜離宮ビルPanasonic Laboratory Tokyo(PLT)内に設置されており、産官学をつなぐ役割が与えられている。説明を行った同社執行役員 生産技術担当(兼)マニュファクチャリングイノベーション本部長の小川立夫氏は「ロボット技術をプラットフォームとして、ソフトウェアやハードウェア、センサ技術などを必要なときに必要なものを組み合わせていくことを、社内外のパートナーとやっていきたいということで立ち上げた」と設立の背景を説明する。

  • 小川立夫氏

    パナソニック執行役員 生産技術担当(兼)マニュファクチャリングイノベーション本部長の小川立夫氏

  • Robotics Hub

    「Robotics Hub」の東京拠点の概要。2フロア構成で、アイデア創出空間と、実際の作業空間に分かれている

  • UX工房

    Robotics Hub「UX工房」の様子

実現に向けたコンセプトはエンラージとエンリッチ

また、「目指すロボットのコンセプトも、これまでは半導体実装や二次電池などを作る機械など、オートメーションの中での、スループットや高品質化といったことを求めてきたが、この分野はこの分野で進化を緩めることなく、人生100年時代において、人間がよりよく生きるか、ということに向け、人の能力を維持したり、拡張したり、オートメーションのロボットとは異なる価値の提供を目指すことを目的に『自己拡張(Augmentation:Aug)』というテーマを掲げた」ともしており、人の動作を拡張していく「エンラージ(Enlarge)」と、心理学や認知行動学なども含め、人間をより良い状態にする「エンリッチ(Enrich)」という2つのアプローチの実現に向けたロボット開発を行っていくとした。

  • AutoからAugへ

    ロボットの役割は、ロボットと人との接し方の変化により、自動化(Automation)から自己拡張(Augmentation)へと移り変わっていく

「人が最後まで自分でやりきることで、誰かのために役にたって、それが生きていると感じることにつながる。そうしたことをサポートできるロボット技術のあり方を追求していきたい」(小川氏)。

  • エンラージとエンリッチ

    エンラージとエンリッチのイメージ。エンラージは人体の機能を拡張していく。エンラージは人体の感覚を拡張していくといったものとなる

こうした取り組みの実現に向け、同社は2019年4月よりエンジニア以外の先端知見も積極的に取り入れる学際的バーチャルラボ「Aug-Lab」を開設。理系や文系といった垣根を取り払い、人を中心に、いろいろな技術の価値の向上を目指していくとしており、小川氏は「より良い暮らしへのアップデートに向けたプロセス確認の場」とその役割を説明している。

  • Aug-Lab

    Aug-Labの概要

共創で生み出される新たな価値とは

すでに千葉工業大学、東京大学、東北大学、奈良先端科学技術大学院大学、立命館大学、早稲田大学の6つの大学がRobotics Hubにて、共同で研究開発を行っていくことが明らかにされているが、今後も同社の「共創の場を作る」という志に賛同してくれた大学などが参加したりしていく見通しという。

  • Robotics Hub

    当初は6つの大学と連携して取り組みを進めていくが、将来的には、その数や拠点数は増加していく見通し

現在、同社では、この2拠点のほか、各地域に複数の産学連携拠点の設置に向けて準備を進めているという。「この取り組みがうまくいき、生み出された技術を現場に導入できれば、これほど良いことはない」と小川氏は語る。また、同説明会に出席した早稲田大学の岩田浩康 教授は「必ずしも最適なものを組み合わせてプロトタイプができあがるわけではない。企業と組むことで、大学のアイデアと、企業の技術力が組み合わさり、使ってみたいもの、人への負担が減るもの、機敏性のあるもの、かつ信頼性の高いといったロボットが作りやすくなる」と、産学の連携のメリットを強調したほか、同じく同説明会に参加した予防医学研究者で、Campus for Hやキャンサースキャンの共同創業者としても知られるハビテックの石川善樹 研究所長も「予防医学とロボットの組み合わせは、かなり離れた距離同士だからこそ、互いに学びがあったり、刺激もある。そこから予想もしていなかったものがでてくるイノベーションの可能性を感じている」と、異分野が連携することによって生み出される新たな価値を強調。Robotics Hubという場を多くの人や企業、大学が活用していくことで、ロボットの新たな可能性が示される動きが見えてきた。

  • Robotics Hubの将来像

    Robotics Hubの将来像