NTTは、ナノスケールのシリコントランジスタを流れる電流が、その表面上にある水溶液中のさまざまな陽イオンの濃度により変化することを見出し、この現象を利用することにより、血清中の陽イオンの濃度を計測することに成功したと発表した。

同成果は、フランス国立科学研究センター(CNRS)とオランダデルフト工科大学(デルフト工科大)の共同研究によるもの。詳細は、英国科学誌「Nature Materials」オンライン版に掲載された。

  • 従来のISFETとナノISFETのデバイス構造(出所:NTTニュースリリース)

    従来のISFETとナノISFETのデバイス構造 (出所:NTT Webサイト)

小型(マイクロ)化学センサは、化学産業での利用やポータブルな医療用計測機器などへの応用が可能であり、広く研究が進められている。従来の化学センサは、測定対象となるイオンを選択的に識別するイオン選択層を用いることによりイオン感応性を実現しており、イオン種ごとにイオン選択層に応じた測定カートリッジを用意する必要があった。

また、化学センサの電気化学信号をトランジスタにより計測する小型デバイス「ISFET」は、pH(水素イオン濃度)センサなどに利用されていたが、イオン選択層の安定な固定化、イオン選択層の寿命などが課題となっていた。NTTはこれまで、再現性と安定性に優れた微細デバイスの開発を進めており、特にナノトランジスタは、常温でも電子1個を検出できる高感度な電荷センサとして、安定な動作が可能であることを確認してきた。

  • ナノISFETの陽イオンに対する応答(出所:NTTニュースリリース)

    ナノISFETの陽イオンに対する応答 (出所:NTT Webサイト)

研究チームは今回、ナノメートルスケールのシリコントランジスタ上にマイクロ流路を形成したナノISFETを用いて、イオン選択層を用いることなく、多種のイオンを同一のデバイスで計測できることを確認した。

まず、ナノISFETの基本動作を確認するため、水溶液中のイオンに対する応答を調査した結果、水素イオン以外もさまざまな陽イオンに高い感度で反応することがわかった。さらに、複数の陽イオンの混ざった溶液においても、それぞれの陽イオンからの応答信号が足し算で出力されるため、それぞれが独立に計測可能なことを見出した。これらの陽イオンに対する応答を利用して、イオン選択層を用いることなく、同一のナノISFETを用いて、血清中のさまざまな陽イオンの濃度計測に成功した。

シリコンの表面はゲート絶縁膜であるシリコン酸化膜で覆われおり、このような多種の陽イオンに対する応答は、ナノスケール化したシリコンの表面に特有の現象と考えられる。その原因は完全には解明できていないが、従来型のトランジスタ表面と水溶液中イオンとの相互作用ではない、水分子も介在した非クーロン相互作用が示唆されることから、新しい表面化学を利用した高機能センサの可能性を示す成果と言えるという。

分子動力学計算によるシミュレーション(出所:NTTニュースリリース)

分子動力学計算によるシミュレーション (出所:NTT Webサイト)

ISFETを安定に動作させるためには、再現性に優れノイズの少ないトランジスタを作製する技術が重要である。NTTがこれまで培ってきナノトランジスタの作製技術と、CNRSで開発したマイクロ流路形成技術を組み合わせることで、液体中においても電子1個レベルの感度を安定して実現するシリコンナノISFETが作製可能となった。今回の新たな陽イオン応答の観測ならびに血清中イオン濃度の計測は、こうしたシリコンナノISFETの安定動作により実現が可能となった。

これらの成果に関して研究グループは、「ナノスケール化したトランジスタが特異なイオン応答をすることを見出し、イオン選択層がなくとも多種のイオンの計測に成功したことは、新しい表面化学を利用した高機能センサ実現の可能性を広げるもの」と説明している。

なお研究グループは今後、ナノトランジスタの表面におけるイオン応答の機構の詳細を明らかにするとともに、計測精度の改善と高機能センサの研究開発を進めていくとのことだ。