産業技術総合研究所(以下、産総研)は、成人92名を対象に10年間の追跡調査を行い、血管収縮を制御するエンドセリン(ET)受容体の遺伝子多型のパターンによって、動脈硬化(動脈スティフネス)の加齢に伴う進行度が異なることを明らかにしたと発表した。

エンドセリン受容体の遺伝子多型の違いと10年間の動脈スティフネスの加齢変化(出所:産総研プレスリリース)

同研究は、産総研人間情報研究部門人間環境インタラクション研究グループの菅原順主任研究員、バイオメディカル研究部門バイオアナリティカル研究グループの野田尚宏研究グループ長、松倉智子研究員らの研究グループによるもので、同研究成果は、米国時間11月2日付で学術雑誌「Journal of Applied Physiology」にオンライン掲載された。

心血管系疾患の発症リスクとして近年注目されているのが、動脈壁の硬さを示す「動脈スティフネス」である。動脈スティフネスは加齢とともに増大するため、動脈スティフネスの維持・改善が、心血管系疾患発症の一次予防として重要視されている。これに関して、有酸素性運動を中心とする身体活動を習慣的に行うことで、維持・改善できることが報告されているが、これらは、運動習慣のある群と運動習慣のない群の比較や、数カ月程度の比較的短期間の運動介入実験から得られたもので、同一の人間で、長期間にわたって運動習慣の効果を検証した報告ではなかった。

今回、動脈硬化の進行度の個人差の遺伝的要因や運動習慣の影響をさらに明確にするため、10年間の追跡調査を行い、エンドセリンAおよびB受容体(ET-A、ET-B)の遺伝子多型や習慣的な有酸素性運動が動脈スティフネスの加齢変化に与える影響を調べた。その結果、動脈スティフネスの指標である上腕-足首間脈波伝播速度(baPWV)の10年間での増加量は、ET-A受容体の遺伝子多型がT/T型の者に比べ、T/C型とC/C型の者で有意に高かった。また、ET-B受容体の遺伝子多型がG/G型の場合、baPWV増加量はA/AやA/G型よりも有意に高かった。ET-A受容体がT/C型またはC/C型の場合、ET-B受容体がG/G型の場合をETに関連する遺伝子リスクとみなすと、リスク保有数が増加するほど、baPWVの増加量は段階的に増大し、リスク保有数0の場合に比べて、リスク保有数2の場合では、10年間のbaPWVの増加量が2.5倍以上であった。

習慣的有酸素性運動実施レベルと10年間の動脈スティフネスの加齢変化。高活動群のbaPWV増加量は他の2群よりも有意に小さかったが、低活動群と中活動との間に有意な差はなかった。(出所:産総研プレスリリース)

一方、習慣的身体活動量の影響に関して、1週間の有酸素性運動量を低活動群・中活動群・高活動群の3群に分け、10年間のbaPWV増加量を比較すると、高活動群は他の2群に比べて、10年間のbaPWV増加量が1/3以下に抑えられていた。高活動群の運動量は、速歩やジョギングを1日30~60分、4~5日/週以上程度実施するのに相当するという。

今回、過去1年間の運動習慣から有酸素運動量を推定したが、高活動群のほとんどの被験者は、過去10年間の間、運動量は維持か減少していると回答しており、有酸素性運動の効果は、比較的短期間の急性的な効果ではなく、日々の積み重ねによる継続的な効果であると考えられる。今後は、今回得られた知見に関して、男女差の有無などを調べるほか、心血管系疾患発症予防のための効果的なスクリーニング法や、身体活動ガイドラインの確立を目指すということだ。