量子科学技術研究開発機構(量研、以下 QST)は、量子ビーム科学研究部門関西光科学研究所量子生命科学研究部レーザー医療応用研究グループの山川考一氏らが開発した高輝度中赤外レーザー(波長:6μm~9μm)を用いた、採血なしで血糖値を測定する技術(非侵襲血糖測定技術)の実用化を目指し、QSTベンチャー第1号であるライトタッチテクノロジー」が7月10日に正式に設立されたことを発表した。

採血型自己血糖値センサー(SMBG)(出所:QSTニュースリリース)

非侵襲血糖測定技術の開発は、可視や近赤外光等を用いて20年以上にわたって行われ、既に製品化を目指した開発も行われているが、糖以外の血液中の成分(タンパク質、脂質等)や環境条件(体温等)の影響を大きく受けるため、臨床応用に必要とされる十分な測定精度を得ることはできていない。一方、中赤外領域では特定の物質のみに選択的に光エネルギーを吸収させることができるため、比較的容易にグルコースの吸収を計測することが可能となっている。しかし、セラミックヒーターなどの従来光源は中赤外領域での輝度が極端に低く、血糖測定に必要とされる十分な精度が得られなかった。

研究グループは、固体レーザーの最先端技術と光パラメトリック発振(OPO)技術を融合することにより、手のひらサイズの高輝度中赤外レーザーの開発に成功し、一定の条件の下、国際標準化機構(ISO)が定める測定精度(血糖値75mg/dl未満では±15mg/dl以内、75mg/dl以上では±20%以内に測定値の95%以上が入っていれば合格)を満たす非侵襲血糖測定技術を確立した。

採血なしに指先で光に触れるだけで血糖値を測定できる(出所:QSTニュースリリース)

今回、この最先端レーザーをコア技術としたQST発の第1号ベンチャー企業であるライトタッチテクノロジーの設立により、今後、大学病院等で糖尿病患者を含めた臨床研究を実施し、POC(proof of concept)取得を目指すという。このPOC取得により、ヘルスケア、医療機器メーカーとの協業を進め、治験、薬機法承認を経て、病院から一般家庭まで広く普及できる小型の非侵襲血糖値センサーを事業展開させることで、糖尿病患者のQOL向上が期待されると説明している。