名古屋大学(名大)は10月4日、次世代シーケンサーを用いて原因不明の小児性急性脳炎・脳症の臨床検体からウイルスの遺伝子配列を検出することで原因ウイルスを特定できることを見出したと発表した。

同成果は、名古学大学大学院医学系研究科小児科学 伊藤嘉規准教授、川田潤一助教、同大学医学部附属病院先端医療・臨床研究支援センター 奥野友介特任講師らの研究グループによるもので、9月14日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

小児期の急性脳炎・脳症は、基礎疾患のない健常な小児が発症し、意識障害やけいれんを伴う予後不良な疾患である。検査の方法が確立しているインフルエンザ脳症などの一部を除いて、原因ウイルスを特定することは困難であり、急性脳炎・脳症の半数は原因が特定されない。

現在、病原ウイルスの特定には、PCR法、抗原検出などの手法が用いられているが、いずれも限られたウイルスのみしか検出することができず、さらにRNAウイルスは変異が多く、高感度のPCR法を用いても偽陰性となることが少なくない。したがって、急性脳炎・脳症の発症機序には不明な点も多く、治療法も十分には確立していない状況であるといえる。

今回、同研究グループは、既存のウイルス感染症の臨床検体を用いて、次世代シーケンサーによるウイルスの検出法の検証を実施。血清や脳脊髄液から核酸を抽出し、DNAおよびRNAライブラリを作成し、それらを次世代シーケンサーであるMiSeqまたはHiSeqを用いて約500万リード判読した。この結果、DNAウイルス、RNAウイルスとも検出が可能であり、従来のPCR法と同等の検出感を有していることが確認された。

次に、原因不明の小児急性脳炎・脳症患者18例から得られた脳脊髄液および血清を用いて、次世代シーケンサーによる解析を実施。脳脊髄液からは、2例でコクサッキーウイルスA9型、1例でムンプスウイルスの遺伝子配列が検出され、原因ウイルスと考えられるものが見つかった。一方で、血清からは1例で植物のウイルスであるトウガラシ微斑ウイルスの配列が検出された。トウガラシ微斑ウイルスとヒトの疾患との関連については、今後も検討する必要があるという。細菌由来の配列も一定量検出されたが、これについて同研究グループは皮膚の常在菌等であると推測している。

今回の研究によって、次世代シーケンサーが急性脳炎・脳症の診断に応用できることが示されたことから、同研究グループは、次世代シーケンサーを用いることで、疾患の原因ウイルスが特定され、病態の解明や治療法の開発に応用されることが期待されるとしている。

次世代シーケンサーによる網羅的なシーケンス