理化学研究所(理研)は7月26日、トポロジカル絶縁体の表面を用いた新しい電流-スピン流変換現象の実験的観測および定量的評価に成功したことを発表した。

同成果は、理研 創発物性科学研究センター量子ナノ磁性チーム 近藤浩太研究員、福間康裕客員研究員、大谷義近チームリーダー、強相関量子伝導研究チーム 吉見龍太郎基礎科学特別研究員、強相関界面研究グループ 川﨑雅司グループディレクター、強相関物性研究グループ 十倉好紀グループディレクター、東北大学金属材料研究所 塚﨑敦教授らの研究グループによるもので、7月25日付けの英国科学誌「Nature Physics」に掲載された。

電流-スピン流変換は、スピントロニクスデバイスの駆動原理として重要な現象のひとつである。また、トポロジカル絶縁体は、内部が絶縁体で表面のみが金属的特性を示す物質で、表面で金属的性質を示す電子は、電子の進行方向に依存してスピンの方向が決まる「スピン運動量ロッキング」という特長を持っている。今回、同研究グループはこの特長を利用してスピントロニクス素子を作製することで、界面での電流-スピン流変換現象の実験的観測および定量的評価を試みた。

具体的には、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびテルル(Te)からなるトポロジカル絶縁体 (Bi1-xSbx)2Te3、非磁性体である銅(Cu)、ニッケル(Ni)および鉄(Fe)からなる強磁性体 Ni80Fe20の三層積層膜構造の素子を作製した。同素子の面内方向に電界を加えると、スピン運動量ロッキングによりトポロジカル絶縁体層の表面にスピンが蓄積し、蓄積されたスピンは、非磁性体層/強磁性体層へスピン流として拡散する。このスピン流は、スピントルク強磁性共鳴法を用いることで定量的に評価することができるため、同研究グループは、フェルミ準位を系統的に変化させた測定素子を作製し、スピントルク強磁性共鳴を測定した。

この結果、界面における電流-スピン流変換の効率は、価電子帯と伝導帯が交わるディラック点近傍以外では、フェルミ準位に依存せず一定値になることがわかった。また、従来の遷移金属を用いたスピンホール効果よりも、高効率で変換されていることが示された。さらに、伝導キャリアがn型からp型に変化しても、界面電流-スピン流変換係数の符合が変化しないことも示された。

これらの結果は、半導体中でのスピンホール効果とは異なる振る舞いであることから、電流-スピン流変換現象の特性は、トポロジカル絶縁体表面のバンド構造が決めているといえる。

同研究グループは今回の成果について、トポロジカル絶縁体の表面状態を利用することで高効率な電流-スピン流変換が可能であることが示されたとしており、今後はスピントロニクスデバイスにおいて、界面の電子物性を考慮した設計をすることで、省電力デバイスの実現に向けた研究が進むと考えられると説明している。

トポロジカル絶縁体/非磁性体/強磁性体の三層積層膜の素子。素子面内方向に電界を加えると、いちばん下のトポロジカル絶縁体層の表面にスピンが蓄積する。蓄積されたスピンは、下から2番目の非磁性体層と3番目の強磁性体層へスピン流として拡散する。このスピン流は強磁性体層で検出され、定量的評価ができる (画像提供:理化学研究所)