日本経済新聞と総務省は6月6日~7日の2日間にかけて、ICTおよび関連分野の有力企業の経営トップや政策責任者などを招いて、デジタル技術が変革するビジネスやものづくりの未来について議論する「世界ICTサミット2016 -デジタルトランスフォーメーション~ビジネスが変わる・ものづくりが変わる-」を開催した。ここでは、6月6日に開催された、ものづくりに関わる5名の企業経営者が登壇した「IoTが変えるものづくり」と題されたセッションの模様をお伝えする。

トークセッションの様子。日経ホールは満席となった

同セッションに登壇したのは、コニカミノルタ代表執行役社長・山名昌衛氏、米プロトラブズ(日本法人)社長・トーマス・パン氏、SOLIZE代表取締役社長・古河建規氏、タタコンサルタンシーサービシズ(インド)副社長 兼 エンジニアリング&インダストリアルサービス グローバルヘッドのレグーラマン・アヤスワミー氏(以下、レグー氏)、米デル(日本法人)・平手智行氏の5名。

まずは、同セッションのモデレーターを務めた関口和一氏(日本経済新聞 編集委員)が、5名のパネリストにそれぞれに現在の取り組みや日本における課題、今後の方向性などを順番に尋ねた。

コニカミノルタ代表執行役社長・山名昌衛氏

コニカミノルタの山名氏は、昨年の11月、米経済誌「Fortune」が主催する「FORTUNE Global Forum 2015」にて、今、真剣にデジタルカンパニーへと変貌しなければ、Fortune 500に掲載される会社の4割が20年後には消滅するという議論を、2日間かけて行ったという。

コニカミノルタでは、「ビジネストランスフォーム」ということで製造業でありがちな"プロダクトアウト型"の事業体制から、全グループが総力を挙げて業種業態別の顧客のワークフローを徹底的に洞察し、デジタルのネットワークを通じてその変革を支援し、その延長線上として多くのデータや画像から生産性や創造性の向上につなげることこそがデジタルカンパニーだと捉え、中期計画のモットーにとして掲げているという。

そのため、すでに昨年5月からマレーシアにて本格的にマスカスタマイゼーションの実現を目指した新たなコンセプト「デジタルマニュファクチャリング」の実現を目指した取り組みを始めたという。

コニカミノルタが打ち出した「デジタルマニュファクチャリング」のコンセプト

次に、プロトラブズのトーマス・パン氏が自社について、インターネット経由で見積もり・注文できる射出成形を行う会社であると説明。依頼者がインターネット経由で3Dファイルをアップロードすると、数分~数時間後には見積もりが届き、発注後ただちに納品される仕組みを構築している。

米プロトラブズ(日本法人)社長・トーマス・パン氏

このプロセスのメリットはどこにあるかというと、例えば大手医療機器メーカーの事例では、従来の方式では試作(Rapid Prototypiong:RP)から機能試作までおおよそ8カ月ほど掛かり、その後FDAや厚生労働省による申請、検証などを経て、実際に製品が立ち上がるまでには12カ月ほどの時間が必要となっていた。

これを、同社のサービスを活用することで、RPから機能試作までの期間短縮が図れ、結果として製品立ち上げまで約半分の6カ月に短縮できた。政府機関による認証時間は変わらないため、実際の試作期間は1/4まで短縮できたことになる。インターネットを介したデジタルツールを用いた顧客とのやり取りが最大の特長であり、デジタルエンジニアリングこそが大きな命であると述べた。

プロトラブズが手がけた医療機器で、試作から機能試作完了までの期間が1/4に短縮されたという

こうした同社のデジタルツールは、カスタマーとの見積もりなどをやり取りするインタフェースから、CADをベースとした形状認識・解析アプリ、金型設計アプリ、CAM・製造制御アプリなどを用意。工程間の最適化やネットワークの最適化、制御系・IT系システムの連携、データ共有など、さまざまな”デジタルの糸”をつないでいく統合システムとして独自に構築しており、これにより並列コンピューティングによる迅速な加工設計やツールパス演算、加工機との制御連動などを実現。即日加工という早さ、便利さ、スケーラビリティ、マスカスタマイゼーション対応などへの提供につなげることに成功していると語った。

続いて、SOLIZEの古河氏は自社について、人を育成し新たな価値を出すエンジニアの会社で、3次元データを使いこなしてグローバルでの製品開発支援をする会社だと説明。「データづくり」と「ものづくり」の両方を行っているという。

SOLIZEの樹脂から金属までさまざまな材料を活用したものづくり

SOLIZE代表取締役社長・古河建規氏

3Dデータを活用した強度などの解析やモデルベース開発を行う「データづくり」と、3Dデータからは分からない実機テストなどを3Dプリンタを活用することで行う「ものづくり」の両方を支援する手段として、3Dデータに載らない情報を顧客に対してフィードバックし、製造メーカーに対しては技術的ノウハウの提供を行っているという。これをグローバルに展開すべく、インドおよび米国のESO会社CSMグループを買収し、インドの解析センターを通じて、日本の経験とインドの頭脳を組み合わせ、サービスを提供していくことを考えているという。

タタ・コンサルタンシー・サービシズ副社長 兼 エンジニアリング&インダストリアルサービス グローバルヘッド レグーラマン・アヤスワミー氏

次に、タタ・コンサルタンシー・サービシズのレグー氏は自社について、IT、ビジネス、エンジニアリングソリューションのプロバイダであり、世界45カ国で展開していると紹介。今回のセッションのテーマである「IoTが変えるものづくり」について、グローバル化によって、日本の大企業の多くが売り上げの5~6割を日本国外から得ていると前置きしたうえで、ビジネスが「顧客中心型」になってきているとし、顧客側からパーソナル化を求めるようになってきたと述べた。

環境規制が世界中で強化されており、製造には大きなプレッシャーが掛かるようになってきていることを背景に、カスタマーエクスペリエンス、製造、サプライチェーンの3つのレベルで「変革」が必要だと語る。

マスカスタマイゼーションの実現には、テクノロジーやICTを活用し、いかに予防型の保守を実現するかが重要だとするが、こうしたコネクテッドデジタルエンタープライズには3D、デジタル情報、製造の自動化などを組み合わせていくことが課題であり、それを実現する鍵として「コネクテッド」、「デジタルツイン」、「クローズドループ」の3つの変革が必要であるとした。

「コネクテッドデジタルエンタープライズ」は、コネクテッド、デジタルツイン、クローズドループの3つが求められる

レグー氏は「私たちも現在ケーススタディーを行うとともに、多くの業界で実装段階に入ってきています」と述べ、プロセスを新たに作り替えることによる効果の大きさを強調した。

米デル(日本法人)・平手智行氏

そして最後にデルの平手氏は、ITの視点で国内製造業の現状やマーケットの移り変わりをどのように認識しているか、ITが果たす役割について語った。同社は直近で40数社以上の買収を行い、デジタルトランスメーションを実現するソリューション(Future-Ready)を顧客のユースケースに分けて増やしているという。

日本企業のIoTにおける現状として、すり合わせ、暗黙知、稼動状況の確認、緻密な制御系は世界最高レベルの技術力を誇り、製造工程での大量のセンサーが高品質化を実現しているが、こうしたデータは実は蓄積されていないという。そのため、そうした領域でのIT活用が有効であるとの考察を示した。

デルが提供するソリューション「クラウド」、「モビリティ」、「ビッグデータ」、「セキュリティ」

また、中小企業もセットメーカーとの連携は取れているが、標準化や中小企業間のデータ連携はまだまだで、個々の有する技術は最高レベルであるものの欧米と比較すると1つの企業や施設に閉じていると指摘。IoTの進め方については、必要なデータの収集からはじめて、適切なKPIによるデータフローの確立とポリシーを策定し効果を測定することで、データストリーム数とプロビジョニングを増やしていくといった考え方で、「今やれるところからのIT」を実現していくことを考えていると述べた。