理化学研究所(理研)および京都大学(京大)は4月27日、物質を構成する粒子の「乱雑さ」を決める時間の対称性を発見したと発表した。

同成果は、理研理論科学連携研究推進グループ分野横断型計算科学連携研究チームの横倉祐貴 基礎科学特別研究員と京大 大学院理学研究科物理学宇宙物理学専攻の佐々真一 教授らで構成される共同研究チームによるもの。詳細は米国の科学雑誌「Physical Review Letters」に掲載された。

粒子の乱雑さは熱力学において物質の状態を表す量の1つであるエントロピーで表すことができる。このエントロピーは、「多数のミクロな粒子を含んだ断熱容器の体積が非常にゆっくり変化する場合、乱雑さは一定に保たれ、エントロピーは変化しない」という保存則があるが、一方で数学者ネーターは「対称性がある場合、時間変化のもとで一定に保たれる量(保存量)が存在する」という定理を示していた。

近年、ブラックホールのエントロピーは、時空の対称性から導き出せることが分かったものの、ブラックホールのエントロピーと物質のエントロピーの関係については、まだ良く分かっていない。そこで研究グループでは、「ブラックホールのエントロピーが対称性から導かれるなら、物質のエントロピーも同じではないか」という発想から今回、物質を構成する粒子の運動が、マクロな物質の熱力学量のゆっくりとした時間変化に対応する条件を数式として完成させ、マクロな熱力学の時間変化とミクロな力学の時間変化の結び付けを行ったという。

その結果、ミクロな粒子の運動を記述する際、量子力学のプランク定数を温度で割った分だけ、時間をずらすように選んだときのみ、ずらす前の運動と同じ法則に従うという対称性があることを確認したほか、ネーターの定理をその対称性に適用することで得られる保存量がエントロピーと一致することも確認したとする。

研究グループでは、この対称性の物理的な描像はまだ明らかになっていないとしつつも、それが理解できれば、これまでの乱雑さとしてのエントロピーとは異なる方法で、ミクロとマクロの世界を結び付けることが可能になり、将来的なブラックホールのエントロピーの微視的起源の理解や熱力学第二法則のような時間の向きとエントロピーの増大する向きが対応する時間の矢問題のミクロな立場からの理解などに役立つ可能性があるとするなど、さまざまな分野で新たな視点を与えることが期待できるようになると説明している。

エントロピーを導く時間の対称性の概念図、黒丸は断熱容器に入れられた物質を構成する粒子、ひものようなものは粒子の軌跡を表している(Sはエントロピー、βは温度の逆数、hはプランク定数)。ピストン(赤)によって断熱容器の体積をゆっくり変化させると、エネルギーは変化するが、エントロピーは一定に保たれる(S=const)。ミクロな力学において、時間をδt=βhだけずらしても運動の法則は変わらない。ネーターの定理より、この対称性に対する保存量がエントロピーを与える (出所:理研 Webサイト)