九州大学(九大)は12月14日、カイラリティ選択的で、長く欠陥の少ない高品質な半導体性単層カーボンナノチューブ精製を可能にする脱着型可溶化剤を開発したと発表した。

同成果は、同大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所/大学院工学研究院 中嶋直敏 教授、同大学院 工学研究院 利光史行 特任助教らの研究グループによるもので、12月14日付けの英オンライン科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

単層カーボンナノチューブは、その炭素原子の配列により半導体性と金属性の性質をもつ二種類のチューブが存在する。なかでも半導体性単層カーボンナノチューブは、理論的にはほぼすべての電子状態を得られることから、次世代のナノエレクトロニクスにおける高効率な素子として重要な存在である。しかし、製造時に発生する構造異性体や不純物に加え、炭素配列の結晶度の良否により、デバイスの性能が制限されるため、高品質でカイラリティ純度の高い精製法の確立が課題となっていた。

今回、同研究グループは、脱着型可溶化剤として水素結合ポリマーに着目した。同研究で用いた水素結合ポリマーは、半導体性単層カーボンナノチューブを選択的に認識する小分子を主骨格に、水素結合をするアミノ基あるいはカルボン酸を配した有機物質から形成され、一次元の直線的な構造を取るようにデザインされている。

一般的に、単層カーボンナノチューブの可溶化に利用される強力な超音波照射は、もろく細いカーボンナノチューブを破壊し、炭素結晶度や長さなどの品質低下を招くが、今回、この操作をより温和な攪拌に置き換えることで、ほぼ非破壊であると同時に、水素結合ポリマーの効率的な吸着を促進し、従来法では難しかった高品質なカイラリティをもつ半導体性単層カーボンナノチューブの選択的抽出に成功した。

水素結合ポリマーは、アセトンなどの水素結合を阻害する溶媒で洗浄するだけで分解・剥離されるため、目的物の表面から完全に除去できる。分離後の水素結合ポリマーはそのまま再利用することも可能だ。

今後は、同成果をデバイスへ応用することで、ナノエレクトロニクスにおける単層カーボンナノチューブトランジスタの高効率化が期待されるという。

半導体性カーボンナノチューブの選択的可溶化と抽出