慶應義塾大学は11月6日、ES/iPS細胞から脳・脊髄にある任意の神経細胞を作製することができる技術を開発したと発表した。

同成果は同大学医学部生理学教室の岡野栄之 教授、今泉研人氏、順天堂大学大学院医学研究科ゲノム・再生医療センターの赤松和土 特任教授らの共同研究グループによるもので、11月5日に米科学誌「Stem Cell Reports」オンライン版に掲載された

アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経疾患では、脳・脊髄の特定の部位が障害されることが知られている。ヒトES/iPS細胞を用いてこれらの疾患を研究するためには、病変となる部位の神経細胞を選択的に作製する技術が必要となる。しかし、ヒトES/iPS細胞から任意の部位を自在に作り分ける手法は開発されておらず、これまで報告されている選択的に神経細胞を作製する方法はそれぞれが全く異なる手法を用いているため、異なる部位での症状を比較する研究は難しかった。

今回の研究では、神経の発生過程における神経管の細分化を決定するシグナルを調整する薬剤の濃度を変化させることで、共通の作製法を用いて前脳から脊髄に至るあらゆる脳領域を作り分けることに成功。さらに、同技術を用いてアルツハイマー病とALSにおいて脳・脊髄の特定の部位の神経細胞で生じる症状を、患者iPS細胞から作製した神経細胞で再現することができたという。

同技術により、特定の脳領域で起きる神経疾患の症状を正確に試験管内で再現することが可能になるほか、脳の複数の領域にまたがる神経難病では、iPS細胞を用いた研究の精度が向上し、新しい診断・治療方法の開発につながることが期待される。

同研究では、アルツハイマー病とALSの症状を患者iPS細胞から作製した神経細胞で再現することに成功した。