村山斉(むらやま ひとし)東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙機構(Kavli IPMU)機構長らの研究チームが、従来の考え方とは大きく異なるダークマターの新理論を発表した。新理論では、SIMP(Strongly Interacting Massive Particle)という粒子を提唱しており、この粒子は、湯川秀樹博士が1935年に提唱したパイ中間子(湯川粒子)と大変良く似た性質を示すという。

パイ中間子は、原子核を形づくる陽子や中性子などの核子間で力を媒介し、原子核を安定的に保つ物質とされる。その後、1960年に、南部陽一郎博士が「自発的対象性の破れ」という考え方で湯川氏の中間子論に基づく理論を正確に記述した。今回発表された新理論は、この2人のノーベル物理学賞受賞者が築いた粒子の性質が、ダークマターとしてふさわしいことを指摘する。

図.従来の理論とSIMPの理論の違いを示した模式図。今までのダークマターの理論では、ダークマター同士は互いをすり抜け反応しないと考えられていた。SIMP 粒子は、パイ中間子が相互作用するのと同種の強い相互作用をする。(Credit:Kavli IPMU)

写真.ダークマターをSIMPとしない場合はダークマターが銀河の中心部の狭い範囲に極端に集中し、外側では少ない (左) 。一方、ダークマターをSIMPとした場合には銀河の中心部から外側にかけてダークマターがなだらかに分布する (右) 。この場合のダークマターの分布は観測事実と良く合う。 (Original credit: NASA, STScI; Credit: Kavli IPMU - Kavli IPMU modified this figure based on the image credited by NASA, STScI)

ダークマターは、宇宙の80%以上を占める物質とされ、その存在なくして星や銀河、生命すらも誕生しなかったとされる。だが、その物質や性質は宇宙物理学者にとって大きな謎であり、これまで多様な理論が提唱されてきた。欧州合同原子核研究機構(CERN)などでは最先端実験装置を使って、ダークマターを見つけるための実験が行われようとしている。

村山氏は、「強い力に現れる湯川粒子と同じような質量、同じような反応、そして同じような理論で記述できる」ことに気づいたという今回の発見に、「『我々はどこから来たのか』という深い謎に迫れるのは、大変エキサイティングです」と語り、共同で研究したカリフォルニア大学バークレー校ヨニット・ホッホバーグ研究員は、「ダークマターについて、今までの考え方とこの新しい理論との間にはいくつかの重要な違いがあり、今後の実験的検証に大きな影響を与えるでしょう」と語っている。

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