理化学研究所(理研)は6月16日、原子レベルの超格子薄膜技術を用いてイリジウム酸化物の電子相を制御し、磁性の出現と絶縁体化が密接に関係していることを解明したと発表した。

同成果は、理研 石橋極微デバイス工学研究室の松野丈夫 専任研究員、東京大学 理学系研究科の髙木英典 教授、東京大学 物性研究所の和達大樹 准教授(研究時は東京大学工学研究科特任講師)、日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究センターの石井賢司 研究主幹、トロント大学 物理学科のHae-Young Kee教授らによるもの。詳細は、「Physical Review Letters」に掲載された。

イリジウム酸化物は、低消費電力デバイスを実現する材料として期待されるトポロジカル絶縁体の1種で、電子のスピンと軌道運動の磁気的な相互作用である「スピン-軌道相互作用」と、電子同士の相互作用である「電子相関」を併せ持つ物質として知られているが、これまでその結晶構造の種類が少なかったため、イリジウム酸化物全体の性質を体系的に理解できていなかった。

今回、研究グループは、原子レベルでイリジウム薄膜とチタン酸化物薄膜を交互に積み重ねた超格子構造を作製し、イリジウム酸化物の電子相を精密に制御することが可能であることを示し、磁性を持った絶縁体相から特殊な金属の一種である半金属相へと電子相が変化していく様子を連続的にとらえることに成功したという。

この結果、イリジウム酸化物における磁性の出現と絶縁体化が密接に関係していることが判明したとのことで、これにより、イリジウム酸化物において期待されるさまざまな電子相を超格子構造によって自在に制御する可能性が示されたとする。

なお、研究グループでは今回の成果を受けて、理論で予測されながらも発見されていない新たな種類のトポロジカル絶縁体の実現、さらには低消費電力デバイスへの応用が期待できるようになるとしている。

上は作製された超格子の模式図。mはイリジウム酸化物の枚数、下はm=1の走査透過電子顕微鏡像。明るい層(イリジウム)と暗い層(チタン)が交互に積層していることが分かる

作製された超格子の物性。左は電気抵抗率およびその温度微分、右上はホール係数、右下は面内の磁化のグラフ。赤線はm=1、黄線はm=2、緑線はm=3、青線はm=4、紫線はm=∞(イリジウム酸化物薄膜のみ)を示している。電気抵抗率からは=1、2が絶縁体、m=4、∞が金属であり、赤矢印(m=1)および黄矢印(m=2)は電気抵抗率の上昇に異常が見られる温度を表し、磁化の立ち上がる温度とも一致しており、m=1、2は磁性と強く結合した絶縁体であると言える。一方、m=4、∞はホール係数の温度依存性から特殊な金属の一種である半金属であることが分かるほか、m=3は電気抵抗率、ホール係数、磁化においてm=1、2とm=4、∞の中間に位置し、ほぼ磁化が消失する点であると言える