産業技術総合研究所(産総研)は5月1日、微細なしわ(マイクロリンクル)状の溝に閉じ込められた液晶中に自発的に形成された周期的な液晶配向構造が、気体試料中のキラリティ(掌性)を持つ光学活性分子とその利き手の検知に利用できることを発見したと発表した。

同成果は、同所 ナノシステム研究部門 ソフトメカニクスグループの大園拓哉研究グループ長、スマートマテリアルグループの山本貴広主任研究員、ソフトマターモデリンググループの福田順一主任研究員らによるもの。詳細は、「Nature Communications」のオンライン版に掲載された。

医薬品、香料、化学工業、農薬などの広い産業分野に関わる多くの物質、特に有機化合物は光学活性を持ちうる。その中でも揮発性物質については、キラリティやその偏りが、匂いやフェロモンなどの生理活性に影響することや、森林などの環境状態の指標として有用であることが分かってきている。しかし、そのような揮発性物質の気体試料の検知・分離(光学分割)には高価で煩雑な分析手法が必要であり、簡便な検知手法が求められている。簡便な手法が実用化されれば、香料や化学品開発の際の簡便なスクリーニング、住・自然環境のモニタリング、科学捜査や臨床診断などの揮発性成分分析に応用でき、産業や国民生活に有益な効果が期待できる。

今回開発した技術は、液晶に溶け込んだ気体分子のキラリティに応じて、マイクロリンクル中の液晶の配向構造が変わる新しい現象を利用したもので、構造変化は液晶に気体試料を吹き付けるとすぐに起こり、偏光顕微鏡だけで容易に観察できる。このため、微量の気体試料中のキラリティを常温常圧下で迅速に評価できるセンサシステムを容易に構成できる。

今後は、ネマチック液晶の種類や実験条件を最適化して、検知可能な光学活性分子を増やし汎用性を向上させる。また、ネマチック液晶だけではなく他の液晶相について、マイクロリンクル中で自己組織化した配向構造の応用についても検討し、より特徴的なセンサや新奇な機能性部材を目指した研究に取り組んでいくとコメントしている。

マイクロリンクルの溝中の液晶の周期的配向構造の変化による光学活性気体分子のセンシング