東北大学は、目を急速に動かしても視覚イメージがぶれずに連続した映像として認識できるメカニズムとして、急速眼球運動時の後頭葉視覚中枢においては、神経細胞活動の抑制と興奮が短時間に目まぐるしく起きて視覚を安定化させていることを、ヒトの頭蓋内脳波を用いた解析にて明らかにしたと発表した。

同成果は、同大学大学院医学系研究科の植松貢 講師、ウエイン州立大学ミシガン小児病院小児神経科の浅野英司 准教授らによるもの。詳細は「Neuroimage」電子版で掲載された。

ある視点から離れた別の視点に視線を移動させる時、眼球の急速な回転(急速眼球運動:サッカード)が生じるが、実は人はこれを絶え間なく繰り返して外界を見ている。一般的に考えれば、眼球が回転する短い時間に本来見えるはずのぶれた映像が見えるはずだが、実際には認識できておらず(サッカード抑制)、そのメカニズムは未だに良く分かっていなかった。

サッカード抑制の概要

そこで研究グループは今回、小児の頭蓋内脳波を用いて約50~200msの急速眼球運動時における高周波数脳波の変化について解析を行い、眼球運動中に後頭葉視覚中枢の神経活動が抑制され、その程度は中心視野を認識する部位(後頭極)において最も強く、長い眼球運動ほど長く抑制されること、ならびに抑制直後に視覚中枢は急速に興奮し、その程度は内側面において最も大きいこと、そしてレム睡眠中の急速眼球運動でも視覚中枢の抑制が起きており、眼前の視覚情報の変化というよりも、眼球運動自体が同時に後頭葉抑制を引き起こしていること、を明らかにした。

後頭葉各領域における急速眼球運動開始時の神経活動の変化。急速眼球運動時の神経活動は、内側面では抑制(青)の直後から興奮(赤)が強く出現している。一方、後頭極では抑制が強い。下面と側面ではその中間の変化を示す

眼球運動開始直前から後頭葉の神経細胞活動は抑制され、眼球運動の停止後急速に活動が増加する。後頭葉の後頭極において抑制が最も強く、その後の活動増加は内側面において最も急峻で強い

この結果、急速眼球運動時の後頭葉では部位により異なる抑制と興奮が短時間に目まぐるしく起きることによって、視覚イメージをぶれない連続した映像として認識できるという機序が解明されたこととなった。

急速眼球運動の長さと後頭葉の神経細胞活動の変化。長い眼球運動がより長時間後頭葉の神経細胞活動を抑制する