京都大学は4月24日、「ハプテン抗原」誘導型アトピー性皮膚炎の病態である「Th2型免疫反応」に「好塩基球」が必須であることを発見したと発表した。

成果は、京大 医学研究科の椛島健治准教授、同・宮地良樹教授、日本学術振興会の大塚篤司特別研究員らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間4月24日付けで英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

好塩基球は白血球の1種で、ヒトの末梢血中には数%ほどしかない。近年の研究からアレルギーに関与することはわかってきているが、その役割の全貌はよくわかっていない。そこで研究チームは今回、好塩基球を特異的に除去できる遺伝子改変モデルマウス(好塩基球除去マウス)を用いて、アトピー性皮膚炎の病態に重要であるTh2型免疫応答についての検討を行った。

なおTh2型免疫応答とは、リンパ球の1種であるT細胞の中の免疫反応の調節役である「ヘルパーT細胞」のTh1型とTh2型の内の、Th2型に関する免疫応答のことである。免疫のバランスとしてTh1型とTh2型はバランスが取れていることが重要だが、Th2型が過剰になってしまうと、アレルギー性疾患を発症してしまうのだ。

そしてアトピー性皮膚炎だが、その発症には2種類があることが知られている。ダニなどのタンパク抗原によって誘導されるタイプと、金属やハプテン抗原(単独では抗原としては働かない抗原)により誘導されるタイプだ。この2種類に合わせ、アトピー性皮膚炎を誘導する動物疾患モデルは、タンパク抗原を繰り返し貼り付ける方法とハプテン抗原を反復塗布する疾患モデルの2種類が存在している。

そこでまず、好塩基球除去マウス用いてタンパク抗原によるアトピー性皮膚炎モデルを誘導したところ、野生型と好塩基球除去モデルマウスでは皮膚炎、または血清中の「抗原特異的免疫グロブリン」に大きな違いは見られなかった。

次にハプテン反復塗布によるアトピー性皮膚炎モデルを誘導したところ、好塩基球除去マウスでは、皮膚炎とグロブリンの減少が見られたことから、ハプテン抗原にて誘導されるTh2型免疫応答では好塩基球が重要な役割を果たしていることが明らかになったというわけだ。

続いて、これら抗原による違いが好塩基球のTh2型免疫応答への関与に違いをもたらす原因を明らかにするため、骨髄から誘導した好塩基球を用いての検証が行われた。すると、好塩基球のタンパク抗原取り込み能が充分でないことに起因していることがわかったのである。

これら結果を裏付けるように、タンパク抗原、ペプチド抗原をそれぞれ試験管内で好塩基球を用いてTh2型のヘルパーT細胞を誘導させたところ、タンパク抗原ではTh2型T細胞がほとんど誘導されないのに対し、ペプチド抗原を用いた系ではTh2型T細胞が誘導されることがわかった。さらに、タンパク抗原であっても免疫細胞の1種である「樹状細胞」の存在下では、好塩基球がTh2型免疫応答を誘導できることが明らかになったのである。

今回の成果により、ハプテン抗原誘導型のアトピー性皮膚炎の病態形成に好塩基球が重要な役割を果たすことが明らかとなった。そして、クロムやニッケルといった金属アレルギーを誘導する金属、うるしかぶれで知られる「ウルシオール」や化粧品に含まれる「ラノリン」や防腐剤の「パラベン」のようなハプテン、また、「グルパール19S」などのペプチド抗原に繰り返し曝露・感作される場合には、好塩基球が皮膚アレルギーの病態形成に関与している可能性が強く示唆されると研究グループでは説明しており、今後、好塩基球をターゲットとした新たな治療戦略の開発などが期待されるようになるとしている。

今回発見されたことの模式図。好塩基球がTh2型T細胞を増やしてバランスを崩し、結果としてアトピー性皮膚炎を引き起こしてしまう