九州大学(九大)は、ショウジョウバエは体内のアミノ酸が不足しているのを感知すると、アミノ酸をより多く摂食するようにエサの好みを変化させることを行動実験によって明らかにしたと発表した。

成果は、九大大学院 システム生命科学府の利嶋奈緒子大学院生、同・理学研究院の谷村禎一准教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、7月25日付けで英科学誌「The Journal of Experimental Biology」オンライン版に掲載された。

ビタミンが不足していると野菜を食べたくなったり、必須アミノ酸が不足するとタンパク質を食べたくなったりする能力が、人間に備わっているのかどうかは未だ不明だ。

むしろ、甘くて美味しいと感じるものばかり食べることによって肥満や糖尿病になることが先進国では問題になっており、何をどれだけ食べるかを知るために栄養学の知識が不可欠となっている。研究グループは、生物が臨機応変に適切な食物を選ぶ能力があるかを調べるため、ショウジョウバエを用いて実験をした。

ショウジョウバエにとっても体内で合成できない必須アミノ酸があり、それらを摂取しなければメスのハエは産卵できない。そこで、アミノ酸を含まない培地でハエの成虫を6日間飼育した後、糖とアミノ酸の溶液のどちらを摂食するかを調べる2者選択嗜好実験を実施。

その結果、アミノ酸を含まない培地で飼育されたハエは、アミノ酸を欠乏していないハエと比べてアミノ酸をより好んで摂食するということがわかった。つまり、ショウジョウバエは体内のアミノ酸レベルをモニターするセンサを持っており、アミノ酸欠乏状態になると、アミノ酸を選択的に摂食するようになる仕組みが存在することが明らかになったのである。

また、ハエの口器にアミノ酸溶液を触れさせて吻(ふん)の伸展反射を調べることで、実際に、唇弁の味覚器について、特定のアミノ酸に対する感度が欠乏状態で上昇していることがわかった。

また、アミノ酸を欠乏したハエは糖を食べて満腹状態であってもアミノ酸を摂食することもわかった。このことから、糖とアミノ酸の摂食はそれぞれ独立に制御されていると考えられるという。

ショウジョウバエは、体内でアミノ酸が欠乏していることがわかり、選択的に食物を選ぶ能力を持っていることが判明した。これは人間が思っている以上に昆虫が高度な意思決定を脳で行い、環境に適応して生活していることを示す結果だ。生物研究のモデルとしてショウジョウバエで昆虫生理学の研究を行うことは、人間が持つ隠された能力を知るための重要な知見を与えることになるという。

研究グループは今後、ショウジョウバエが体内に持っていると考えられるアミノ酸センサが、どのような仕組みで働いて摂食行動を制御しているのかを研究していく予定だ。