ウェザーニューズは5月15日、北極海の海氷観測を目的とした超小型実用衛星「WNI衛星」(WNISAT-1)を報道向けに公開した。ドニエプルロケットの相乗り衛星として、ロシアのヤースヌイ宇宙基地より、2012年9月以降に打ち上げられる予定だ。

WNISAT-1のフライトモデル(実機)。この小さな衛星が本当に宇宙まで行くのだ

ウェザーニューズでWNI衛星プロジェクトを率いた山本雅也氏

WNISAT-1は、大きさは27cm角、重さは約10kgの超小型衛星。可視光と近赤外光の2つの観測カメラを搭載しており、高度600kmの太陽同期軌道から地球を撮影する。2008年6月からプロジェクトを開始し、大学発ベンチャーのアクセルスペースが開発していた。プロジェクトの総費用は打ち上げ費込みで約2億円。

衛星のミッションは、北極海の海氷を観測し、船舶が安全に通れるルートを探すこと。従来、欧州とアジアを結ぶ航路はスエズ運河経由と喜望峰経由があったが、近道となる北極海を通ることで、航海距離を半分~1/3程度に短縮することができる。近年、地球温暖化により海氷が減少しており、燃料費を抑えられる北極海航路に注目が集まっていた。

北極海航路なら、従来に比べ大幅に距離を短縮できる。CO2排出量も削減

海氷の観測以外に、いくつかの追加ミッションも予定している

WNISAT-1の観測カメラは、地上分解能は500mで、1枚で500km四方の撮影が可能。基本的に可視光カメラの画像で海氷を調べるが、可視光だと雲と海氷の区別が難しい場合があり、そのときは近赤外光カメラの画像も見て、反射率の違いから判断する。

ウェザーニューズは船舶向けの情報提供サービスを行っており、WNISAT-1が撮影したデータをこれに活用する。商用の衛星画像サービスを使うとコストが高くなりすぎるため、従来はNASA(米国航空宇宙局)やNOAA(米国海洋大気庁)の観測画像を利用していたが、どうしても時間がかかった。しかし自前の衛星を持つことで、リアルタイムに近い状態での観測が可能となる。

WNISAT-1との通信には、当初は日本国内の地上局だけを使うため、交信は1日2回に限られる。しかし今後、北欧など海外の地上局も利用する予定で、そうなると交信回数は1日10~15回程度と大幅に向上する見通しだ。

現時点の打ち上げ予定日は9月28日。主衛星(ドバイサット)の都合で遅れる可能性はあるが、打ち上げ後2カ月間程度の軌道上チェックアウトを経て、早ければ今年12月にも運用が開始される見込み。

数tクラスの大型衛星の開発には数百億円という大きなコストがかかるが、超小型衛星であれば2桁も小さなコストでの開発が可能。このくらいの費用なら、民間企業が"マイ衛星"を持つのも現実的であり、日本の新たな産業として、超小型衛星の市場拡大が期待されているところだ。

「普通の企業が自前の衛星を持つというのはこれまで考えられなかった。しかし我々でも使えるということを示すことで、いろんな業種の企業が宇宙をもっと有効に利用してくれるようになるかもしれない」と語るのは、同社でWNI衛星プロジェクトを率いた山本雅也氏。「宇宙に関係ないような企業でも、宇宙を活用することでビジネスに広がりが出たり、新しい視点で事業が展開できるのはあると思う。そのようなことを考えるきっかけになってくれれば」と期待する。

WNISAT-1の構成。わずか10kgの超小型衛星ながら、リアクションホイールと磁気トルカを使った3軸制御が可能

構体の色が金色なのは「アロジン1200」という表面処理。熱の入射量を増やして、衛星の冷えすぎを防ぐ

底面が地球側となる。左下の丸い穴が可視光カメラと近赤外光カメラ。その少し上にはCO2観測用のレーザー照射口も

軌道上ではこの細長い板がパタンと展開。先端には磁気センサが付いており、ノイズ対策として本体から離す

上側に通信アンテナがある。四隅のは送信用で、中央の1本は受信用だ。波長はUHF帯。手前側にはGPSアンテナも

後ろ側も撮影。この面の下側に見える丸い穴には姿勢制御用のスタートラッカが入っている

ちなみにWNI衛星は2号機も検討中だという。1号機は光学センサだったが、2号機ではマイクロ波センサの搭載を考えているとのことで、これなら雲が出ていてもその下の海氷の様子を観測できる。打ち上げ時期については「未定」としながらも、山本氏は「今後1年かけてセンサのめどを立てて、3年後の打ち上げを目指したい」と見通しを述べた。