東北大学大学院工学研究科化学工学専攻の今野幹男教授・長尾大輔准教授らの研究グループは、自らが開発した高屈折率透明ナノコンポジット膜の作製技術を応用し、400℃程度の高温下でもほとんど熱分解しない高屈折率ナノコンポジット透明膜を新たに作製することに成功したことを発表した。

薄型ディスプレイに代表される表示デバイスでは一般に、異種材料界面で生じる屈折率差をできるだけ抑え、発光素子からの光を高効率で外部に取り出すことが重要となる。デバイス内に高屈折率・低屈折率材料が混在する多層構造の場合は特に、層間の屈折率ギャップを小さくし、異種材料界面で生じる光損失を低減することが求められており、こうした課題に対して、屈折率ギャップを補うための透明膜を異種界面に挟み込むことが検討されている。

ポリマー中にナノ粒子を均一分散したナノコンポジット膜は、ナノ粒子の分散量によって屈折率を調整することが可能であり、屈折率ギャップ調整層として注目されており、これまでにも様々なナノ粒子と透明ポリマーからなるナノコンポジット膜が作製されてきた。しかし、デバイス製造工程ではナノコンポジット膜が300℃を超える高温環境に晒される場合もあり、このような場合、透明高分子として広く知られるアクリル系ポリマーをマトリックスポリマーとして利用することは困難であった。

このような背景から同研究グループは、耐熱性に優れるポリイミド中に高屈折率材料としても知られるチタン酸バリウム(BT)をナノ粒子の状態で均一に分散させることで、高耐熱・高屈折のナノコンポジット透明薄膜を作製した。

具体的には、屈折率の高い結晶性チタン酸バリウム(BT)のナノ粒子を、耐熱性透明高分子であるポリイミド(PI)中に分散する手法を開発。高屈折粒子として広く知られるチタニアナノ粒子には光触媒作用があるが、今回適用したBTナノ粒子にはその触媒作用がほとんどなく、ナノ粒子共存下での光照射によるポリマー劣化を懸念する必要がないという特長がある。また、BTナノ粒子をポリイミドに均一分散するため、分散前のBTナノ粒子表面を、ポリイミド骨格に類似の構造を有する有機分子で表面処理し、高濃度充填によるナノ粒子の凝集を抑制したという。

この結果、、粒径約20nmのBTナノ粒子をポリイミドに充填したときに得られるナノコンポジット薄膜の屈折率は、BTナノ粒子を高充填することで屈折率は1.85を達成し、層間での屈折率ギャップを補うに十分な性能を実現している。

チタン酸バリウムナノ粒子を充填したポリイミド薄膜の屈折率変化

また、、種々の濃度で充填したナノコンポジット薄膜の透過スペクトルを観察した結果、BT粒子を約60vol%充填してもナノコンポジット膜の透過率低下はほとんど見られず、この評価結果から、充填したBTナノ粒子がポリマー膜中で均一に分散していることが示唆されたという。

チタン酸バリウムを充填したナノコンポジット膜の透過スペクトル

さらに、上記2つの評価に用いたナノコンポジット薄膜の耐熱性を示差熱重量分析装置で評価した結果、耐熱性の指標となる5%重量減少温度(Td5)はいずれのコンポジット薄膜においても窒素雰囲気下で460℃を超え、ポリイミドのみの薄膜のTd5(498℃)に匹敵する優れた耐熱性を示した。

加えて、ポリイミドに高誘電性材料の一種であるチタン酸バリウムを充填したことで、誘電特性にも優れており、BT粒子充填率59vol%におけるコンポジット薄膜の誘電率は35超、誘電損失は0.05以下と透明キャパシタとしての応用も期待されるという。なお、今回の研究はサムスン横浜研究所との共同研究で実施されたものである。