物質・材料研究機構(NIMS)の研究チームは、電気を蓄える「キャパシタ」のエネルギー密度を、シート状のナノ物質であるグラフェンを層状に積み重ね、その間にカーボンナノチューブ(CNT)を挟み込んだ電極を用いて向上させることに成功したことを発表した。

同成果はNIMS先端材料プロセスユニットの一次元ナノ材料グループ唐捷グループリーダーおよび程騫NIMSジュニア研究員と米国ノースカロライナ大学のグループによるもので、英国王立化学会の物理化学専門誌「Physical Chemistry Chemical Physics」に掲載される予定。

現在、電力利用の効率化と省エネ化、再生エネルギーの効率的利用のため、ニッケル水素電池などのバッテリ開発が推進されている。中でもキャパシタはバッテリに比べ、出力密度が大きく急速な充放電が可能で、例えば自動車のブレーキ時の損失エネルギーの90%を回収することができ、充電も短時間で完了するといった特長があるほか、長期間の繰り返しの充放電も可能で、リチウムイオン電池などに比べて安全という特長もあるが、エネルギー密度はそれらに比べると低く、大容量化が困難だという欠点があった。

キャパシタのエネルギー密度を増大させるには、キャパシタ電極の表面積を大きくする必要があり、出力密度を大きくするには高導電性とする必要がある。研究グループは、化学的処理によりグラファイトからグラフェンを作製し、グラフェン同士の間にCNTをスペーサとして挿入した積層構造を創製することで、これらの課題の解決を図った。

電解液イオン(赤い丸印)を吸着するグラフェンシート

具体的には、グラファイトから作製したグラフェンを分散させた水溶液に、CNT分散水溶液を添加するとグラフェンとCNTの相互親和力により、グラフェン表面にCNTが接着した複合構造が得られ、これを濾過したところ、CNTがグラフェン間のスペーサとなり、また、グラフェン間を電気的・機械的結合させた層状のグラフェンフィルムが得られたという。

左図:CNTがスペーサとしてグラフェンの間隔を広げ電解液イオンを流入させるとともにグラフェンを電気的・機械的に接合させる。右図:グラフェン表面に接着したCNTの透過型電子顕微鏡写真

同層状フィルムは、CNTをスペーサとしているため、1枚1枚のグラフェン表面に電解液が浸透し、多量の電解液イオンを吸着することが可能である。これにより、グラフェンの表面積を最大限に利用でき、エネルギー密度を増大させることができるようになったという。また、CNTはグラフェンフィルムの電気導電性を高め、出力密度を増大させることが可能で、実際にグラフェン積層のフィルムを高純度チタンの集電極に接合させた電極を作製し、電解液を含浸させ、セパレータを挟んだ2電極方式のキャパシタを試作してキャパシタ特性を計測したところ、グラフェン積層電極は水性電解液では安定した電圧-電流特性を示し、有機電解液では電極材料のエネルギー密度62.8Wh/kg、出力密度58.5kW/kgの高いキャパシタ特性を得たという。

また、電解液にイオン液体を用いるとエネルギー密度はさらに増大し、155.6Wh/kgのエネルギー密度が確認されたという。これらの値は従来のキャパシタ特性値を大幅に上回っており、現在用いられているニッケル水素電池に匹敵するという。

一般的なキャパシタ10万回の充放電に耐えられる耐久性を有するが、今回、開発されたグラフェン積層構造電極は、繰り返し充放電での性能の劣化は確認されず、むしろ性能が少しずつ向上したという。

左図:CNTのスペーサにより電解液イオンがグラフェン表面に流入し、吸着されやすくなる。右図:電解液イオンの吸着量は繰り返し使用により次第に増加し、静電容量(Capacitance)は1000回の繰り返しにより20%増加した。このトレーニング効果の実験は図中のLEDランプの点滅により行った

これは充放電の繰り返しにより、グラフェン積層間への電解液イオンの流入が容易となり、電解液の流入・出がより高速・多量となり、電解液イオンの吸着量が増加したためと考えられ、こうした繰り返し使用により性能が上昇するキャパシタのトレーニング効果は、初めての発見となったという。

こうした結果を受けて、研究グループでは同キャパシタは、発停車は多いが長距離の航続距離を必要としない都市型の電気自動車(EV)に最適であるとしているほか、太陽光発電、風力発電などの再生エネルギーの蓄積と平準化にも適用可能であるとしている。

さらに、電極に用いるグラフェンはグラファイトの酸化還元処理によって得られ、CNTとの複合化も分散水溶液を混ぜ合わせるだけで作製することができるため、原材料価格をリチウムの1/10以下に抑えることができるほか、作製プロセスも現在のキャパシタ電極材料の活性炭素粉末に比べてもシンプルで量産性に優れていることから低コストでの製造ができるという。

なお、研究グループではグラフェンを用いることで従来にない高性能キャパシタを試作できたものの、まだグラフェンの潜在する特性を出し切ってはいないとしており、今後は炭素原子1個の厚さによる特異な現象であるナノボアの利用や架橋を利用したグラフェン積層間隔の最適制御などを行うことで、エネルギー密度をさらに倍以上に増大させることが可能としている。