F1ワールド・チャンピオンを3回獲得するなど数々の偉業を成し遂げ、モータースポーツファンの誰もが、最速の男として認めたF1ドライバー アイルトン・セナ。34歳の若さでレース中に事故死したセナのドキュメンタリー映画『アイルトン・セナ 音速の彼方へ』がBlu-ray/DVDで発売された。この作品を手掛けたアシフ・カバディア監督に話を訊いた。

1,000時間もの映像から作品を制作

――アイルトン・セナが亡くなって16年もの時が流れました。この作品は、どのようにして制作されたのでしょうか。

アシフ・カバディア(以下、カバディア)「この企画自体は、10年前にスタートしました。実際の制作に取り掛かったのは5年前で、編集作業には3年かけています。とにかくセナやF1に関する膨大な映像を見て、長時間かけて編集しました」

アシフ・カバディア監督

――これまでにテレビで我々が観ることのできたレースシーンだけでなく、ドライバーズミーティング、ピット内のドライバーの様子、メカニックとドライバーのマシンセッティングに関する会話など、これまでは絶対に観ることができない貴重な映像が、この作品では豊富に使われています。これらの貴重な映像素材はどれぐらいあったのでしょうか。

カバディア「この映画のために、誰も見たことのないような貴重な映像素材を、集めました。映像素材だけで、1,000時間を軽く超えていると思います。それに撮り下ろしの映像素材を加えて、まずは5時間バージョンを編集で完成しました。それを元に、4時間バージョン、3時間バージョン、2時間バージョンと作っていったのですが、さらにカットしなければならず大変でした。最終的に約100分まで編集したのですが、削ってしまった良いシーンもありますね。個人的には、3時間バージョンも気に入っているので、いつか公開できたら良いですね」

――セナが少年時代にカートに参加している映像や、プライベートの映像などもあり驚きました。監督にとって、これらの秘蔵映像の中で衝撃的な映像はありましたか。

カバディア「セナに、『ライバルは誰?』と質問している映像があって、皆は、セナが『プロスト』と答えるに違いないと思っていました。ところが、彼はなんと、『カート時代のテリー・フラートンがライバル』と答えていたのです。実は、あれほどの速さを誇ったセナですが、カート時代にテリー・フラートンにだけは、一度も勝ったことがなかったのです。3歳からカートに乗ってたセナが勝てない唯一の相手がテリー・フラートンだったのです」

――本作では、スポーツマン、レーサーとしてのセナだけでなく、慈善活動に真剣に取り組むセナの姿なども描かれています。

カバディア「プライベートのオフ映像では、まさに彼の人柄が出ていると思います。彼はいつも有言実行でした。ブラジルの貧しい子供たちに対して、何かしなければと思っていたし、言っているだけではなく、実際に多額の寄付をしていました(※その活動は、セナの死後、遺産を基に設立されたセナ財団で継続中)」

――家族と過ごす様子も描かれています。

カバディア「プライベートの場面では、家族で海にいるときが一番幸せそうでしたね。セナは家族思いで、仕事も人格も、とにかく最高の人物だったんです。セナのプライベート映像は、実はセナの弟が提供してくれたのです。この作品の制作に携ってから、何度もセナ財団に足を運んで、ようやく財団やセナの家族といい関係を築けるようになりました。セナ財団といえば、彼の姉にあたる、ヴィヴィアーニが有名で、弟のレオナルドの事を知る人はあまりいません。でも、このレオナルドが、ホームビデオを提供してくれたのです。セナの家族も、そのテープを見るのは、20年振りだったようで、どのような映像が映っているのか、緊張して映画を観たそうです」

『アイルトン・セナ 音速の彼方へ』より

Photographer(c)Norio Koike

Photographer(c)Angelo Orsi