雑誌+DESIGNING、雑誌Web Designing、マイコミジャーナルの3媒体が、様々なジャンルのクリエイターたちを100人連続で紹介していく新企画。第15回は、ALTERNATIVE DESIGN++の代表であり、AR三兄弟の長男でもあるAR(拡張現実:Augmented Reality)クリエイター・川田十夢が登場。

川田十夢プロフィール

ALTERNATIVE DESIGN++代表。4月に退社したメーカーでは、ミシンとネットを繋ぐ特許を開発。世界190カ国で動作する部品供給システムの設計・開発、展示会プロデュースなどを歴任。同時に、Adobe Recordsインタラクティブ・アート最優秀賞、ミュージック・クリップ部門優秀賞をダブル受賞するなど、クリエイティブ世界でも暗躍。最近では、自身が手掛ける開発ユニット、AR三兄弟が話題。さまざまなメディアをマッシュアップしては、うっかり露出を増やしている。オフィシャルWebサイトはこちら。ALTERNATIVE DESIGN++オフィシャルブログはこちら。

ARとは?‥‥Webカメラなどを通して、現実世界の映像に3Dオブジェクトやテキスト、動画、画像といったデジタル情報を重ね合わせて見る仕組みのこと。開発には、C言語ベースの「ARToolKit」を用いるか、もしくはARToolKitを移植したJava/C#言語ベースの「NyARToolkit」、Flash(ActionScript 3)ベースの「FLARToolKit」、iPhone向けの「iPhone ARKit」などを用いる。

Q&A

――この仕事に就こうと思った年齢ときっかけは?

川田十夢(以下、川田)「僕の名前、十夢っていうんですけどね。この名前を与えられた時に、もうやるべきことはすべて決まっていた気がします。吉田戦車の4コマで、『スリにだけはなって欲しくない』という願いを込めてスリ男と名付けられた男が、スリになって捕まって、露骨に悲しむ両親を前に『お前のせいだろ!』って突っ込む話があるんですけど。多分、そういうことだと思います」

――これまでで一番思い入れのある仕事は?その理由や思い出を教えてください。

川田「2009年に開催された『Adobe Records』というアワードで、ダブル受賞を遂げたことだと思います。インタラクティブ・アート部門の審査員だったTOMATO・長谷川踏太さんが、『脱力系アーティスト』と大々的に評してくれたことで、僕の中で鬱屈していた『クリエイティブだからといって何故カッコつけなくてはいけないのか?』みたいな問いが吹っ切れました。また、あの作品は僕が昔から描いている自画像を元にした作品だったのですが、クリエイティブに主観や主体をあえて組み込むことで、増幅する作家性みたいなモノも同時に得たような気がします。そして、真逆のタッチで制作した作品が同時に認められたことも、現在持ち合わせているクリエイティブの幅につながっていると思います」

Adobe Recordsでダブル受賞した「"Now Creating..." 毛(HI+HANA).ver」と「"Now Creating..." Domino.ver」

――この仕事を辞めようと思ったことはありますか?また、そのきっかけは何ですか?

川田「辞めようと思ったことは一度もありません。今の仕事をやっていなかったら、ヤバかったなと思うことは多々あります。僕は毎日何かしら妄想をしていますし、それを戯言のように周りに触れ回っています。今は偶然、アウトプットする手段を持ち合わせているから良かったですけれど、それがなかったら単なる虚言癖のある人ですからね。だから逆に、今の仕事は辞められないし、辞めようとも思いません」

――これから取り組んでみたいこと、関わってみたい仕事は何ですか?

川田「AR三兄弟として掲げている今年のミッションがあってですね。『BEAMSからビームを出す』、『APAホテルの社長・元谷芙美子さんにカクメットを被せる』、『小林幸子さんの紅白歌合戦の衣装を完全AR化する』という三つなのですが、これも方々で言い回っていたら、うっかり実現方向に進んでいるプロジェクトも出てきまして。自分でもワクワクしています。僕個人としては、読んでいない漫画や本が山積み状態なので、それをいち早く読破したいです」

――愛用している、思い入れのある道具や本、ものを教えてください。

川田「ぺんてるの水性ペン(黒+赤+緑)と紙。これに尽きますかね。紙とペンさえあれば、僕は何でも設計できるし、発明できるという自負があります。発想してはすぐ忘れるタイプなので、手元にペンと紙がなければ、Twitterに一旦アイデアをつぶやいておいて、後で清書することもあります。でも、やはり突発的かつ同時に浮かんだアイデア+設計+デザインには、初期衝動という意味で敵いません。だからなるべく、ペンと紙だけは持ち歩くようにしています。それから、思い入れのある本というと、十代の頃に円形脱毛症になるくらい読み倒していたので、一冊に絞るのは難しいですが、たまに読み直すものは、ジョン・アーヴィングの『ガープの世界』と『ホテル・ニューハンプシャー』です。あと、僕の名前の由来になった夏目漱石の『夢十夜』も、読み返す度に印象が変わって楽しいです」

川田氏愛用のぺんてるの水性ペン(黒+赤+緑)と紙。ペンと紙だけは持ち歩くようにしているという

――尊敬している人を教えてください。

川田「これも本と同様に一人に絞れないので、羅列させてください。ジョン・アーヴィング、ウディ・アレン、テリー・ギリアム、モンティ・パイソン、ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サント、スパイク・ジョーンズ、ミシェル・ゴンドリー、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、トーベ・ヤンソン、マーク・トウェイン、アイザック・アシモフ、忌野清志郎、夏目漱石、赤塚不二夫、安倍公房、宮沢章夫、開高健、筒井康隆、色川武大、ねじめ正一、星新一、広瀬正、荒木飛呂彦、すぎむらしんいち、小谷正一、内田勝、橘川幸夫、小林弘人、三木聡、長谷川踏太、田口元、危口統之(敬称略)です」

――アイデアを練る場所、時間などを教えてください。

川田「僕は、ほとんどのことをあらかじめ考えているタイプなので、アイデアを練る時間はほぼありません。アイデアを求められた瞬間が、アイデアを考える時間であり、練る時間だといえます。アイデア・練る・ドリップ方式、です」

――1カ月で仕事をしない日は何日ありますか?

川田「今はほとんどないです。仕事をしながら、休み休み休んでいる感じ」

――理想的なオフの過ごし方は?

川田「漫画喫茶で10連泊とか、幸せそうですね」

――趣味やコレクションなど、いま、個人的にハマっていることを教えてください。

川田「さっきもチラっと出た、APAホテルの社長・元谷芙美子さんが面白いです。彼女の言動や書籍は全部追っているのですが、とても興味深い。『私が社長です』という広告の裏には、さまざまなクレームや葛藤があったそうなんですが、それを押し通す天性の明るさとテンションみたいなものがある。そうした内面に惹かれているのか、画的にグッときているのかわかりませんが、すごく好きです。あと、三木のり平さんもカッコいいです。作・演出・役者なんでもこなす昭和の喜劇人で、一般には桃屋のCMに出てくる黒縁眼鏡のオッサンとして有名な人です。なんだか脈絡がないように思われそうなので解説を加えると、僕の今の興味は、自分で構築した世界観に突如として自ら登場し、ユニークな雰囲気を醸し出す人に向いているのだと思います」

――お酒を飲みますか?週何日、どのくらいの量を飲みますか?

川田「ほぼ毎日呑んでいます。呑む時はかなりの量呑みます。酒は強い方だと思います」

――同業でよく飲みにいく、食事をする人は誰ですか?

川田「呑みに行ってくれる人とは、分け隔てなく呑みに行きます。呑みに行く人が誰かは特に重要ではなくて、共有する時間が一番大切なんだと思います」

作品紹介

左:ノイタミナ ムービングタイポグラフィ(ロゴ)
CL:フジテレビジョン / AR(拡張現実/アーキテクチャ)、AD:川田十夢
右:Web Designing『AR三兄弟のメディア拡張計画』
AD、P、M(モデル)、K(カクメット):川田十夢