机上の人にならないために

エクストリームに達するべく実施されたORF。その意義は参加者全員の共通前提となったのだろうか。國領氏は2つの大枠の中でその着地点を見出す。一方は「世の中へ向け発信したい。仲間を募り、プロジェクトにつなげたい」という意欲。もう一方は「見られると人間はキレイになる」という論理だ。

「エクストリームというお題が出され、六本木ヒルズで展示しろと言われれば、誰でも考える。考えること自体に意味がある。仲間内だけならば批判し合えば終わることだけど、外部のお客さんに見せるわけだから恥ずかしいことはできない。説明しなくちゃいけないというプレッシャーが発生し、研究のレベルが上がり大学のイノベーションにつながる」。ORF実行委員長も務める國領氏の言葉は、学生をさらに鼓舞させるように響いた。

宮台氏は、國領氏の提唱した2つのファクターのうち「商談」面の重要性を説いた。「フランスのような極端な階級社会では強固なコネが存在し、ソーシャルデザインに必要なト―タリティ(全体性)に対する参照がやりやすい」とし、非階級社会の日本ではスプリームな(高位な)人たちのコネクションが弱いと言及。「こういったイベントを通じ、スプリームな人たちとつながれるのかにこだわってほしい」とげきを飛ばした上で、優秀なクリエイターが出現しソーシャルデザインに携わることへ期待をかけた。

討論中、壇上にトマトが運ばれた。神成氏の研究室が、新潟県内の企業との産学連携で栽培したものだ。「机の前にいるだけの人」にならないための一策が農業だという。もちろん、「面白いね」という評価だけにとどまらず、きちんと産業化し後世に残す目的だ。

神成氏は、エクストリームの達成について結論を急がない。「何割の人が成功すればいいということではなく、一人でも可能性を引きだしていく。確率や当たり外れの問題ではない」と締めくくった。

トマトを味わいつつ、國領氏は「天から補助金が降ってこなければ始められない農業ではダメ。小資本で甘いトマトを作り、収入がたくさん入る。だれかに頼らなくても、手に届く範囲で何かが起こるというメッセージを神成さんが発信してくれたのはうれしい」と激励。トマトの甘みと酸味の融合が、エクストリームを生み出す日も近い。