5Gから6Gへの移行は、通信速度が単に向上することではありません。ネットワークの設計、運用、収益化のあり方を根本から大きく転換するものです。

6Gは、無線システムの中核にインテリジェンスとセンシングを組み込み、周波数利用の戦略を再定義し、エネルギーやコストモデルの刷新が見込まれています。これから2回に分け、前編では6Gの技術革新を加速させそうなブレークスルーと、まだあまり注目されていないけれど、業界が注目する可能性のある動向を紹介します。後編では、6GがIMT-2030(International Mobile Telecommunications-2030:国際移動通信2030)の目標を達成するために解決すべき技術的課題を解説します。

6Gを前進させる技術的ブレークスルー

AIネイティブネットワーク:最適化から設計の中核へ

AIが「付加機能」から「ネットワーク設計の基盤」へと進化することが、業界では議論の明確なテーマになっています。5Gでは、AIは主にネットワークレベルやRANインテリジェント・コントローラ(RIC)機能に適用されていましたが、6GではRANと物理層(PHY)にまで浸透します。これには、トレーニングやモデル交換、デバイス上での推論に関する標準化されたワークフロー、精度、遅延、エネルギー、メモリを測定するKPIの定義、マルチベンダー環境でAIモデルを動作させるための相互運用インタフェースが求められます。

特に注目されるのは、PHY(物理)層における双方向AIです。基地局と端末(UE)が双方向で協調し、チャネル状態情報(CSI)の圧縮と強化、モビリティ下での高速ビームステアリング、ソースとチャネルの共同コーディング(統合符号化)へのAI適用などです。これらは単なる研究テーマではありません。FR3で数千のアンテナ素子と近距離無線効果により、従来のアルゴリズムでは複雑さの限界に達しているため、具体的に検討されています。AIはRANにおいても重要な役割を果たします。AI-for-RANはスペクトラム利用の改善、コスト削減、エネルギー効率の向上を実現し、AI-and-RANがインフラの利用を最大化し、AI-on-RANは無線ネットワークの新しいサービスやアプリケーションの創出を可能にします。加えて、エージェント型AIがレイヤー間で最適化ポリシーを調整する、重要な役割を担うでしょう。

重要なのは技術的な変化だけではありません。固定スタックの最適化から、学習する適応型スタックの設計という転換です。ただし、「AIネイティブ」が機能するためには、導入する設計をテストし、ベンチマークし、信頼できることが不可欠です。現実の障害条件下でAIネイティブ設計をテストし検証するには、無線とAIの両方を理解する専門知識と高度な測定ソリューションが必要になります。

新しい周波数と新たなルール:FR3が主役に

当初、6Gへの期待はサブテラヘルツ周波数に向けられていました。しかし実際にはFR1とFR2周波数の間に位置するセンチメートル波(cmWave)帯であるFR3に焦点を移しています。理由は、アンテナ素子とビームフォーミングの規模を拡張すれば、既存のマクロサイトから現実的なカバレッジを維持しつつ、より広い帯域幅にアクセスでき、エネルギー効率も向上できるからです。

FR3の課題は、次の3点に集約されます。

  1. 既存タワーでのカバレッジ確保:リンクバジェットを維持するため、アレイサイズは数百から数千素子へと急増します。これにより、フロントエンド効率、熱設計、キャリブレーション、近距離ビームフォーミングの技術革新が求められます。
  2. 共存と共有:FR3は、衛星通信、地球探査、防衛レーダーなどの既存利用がひしめいています。フィルターや ガードバンドの強化、干渉除去、地上(TN)・非地上ネットワーク(NTN)間の動的共有ポリシーが、単なる通信速度以上に、戦略的な要素となります。
  3. 国際調和:断片的な割り当てがデバイスの数を増やし、ネットワークのカバレッジ展開を遅延させます。2027年の世界無線通信会議(WRC-27)を見据え、国際調和は、単なる望ましい要素ではなく、6G市場の基盤となります。

ゲームチェンジャーとなるハードウェア

RFフォトニクスとヘテロジニアス・インテグレーションのブレークスルーは、研究段階からプロトタイプ開発へと進み始めています。マルチ周波数・広帯域の光フロントエンドは、マイクロ波からミリ波(mmWave)まで低損失で再構成可能なリンクを提供し、「RF+ミックスドシグナル+制御」を統合したCMOS技術により、無線ヘッドでのサイズ、重量、消費電力、コストを縮小します。

同時に、再構成可能なインテリジェント・サーフェス(RIS)と新素材により、大規模な多入力多出力(xMIMO)が実用化される可能性もあります。RISが校正、制御、信頼性、コストの課題を克服すれば、FR3におけるカバレッジとエネルギーのトレードオフを、単なる出力増幅だけでなく、フィールド(電磁界)をステアリングによって再構築し、最適化できます。

注目すべき水面下の動き

エネルギーを設計の最優先制約に

巧みなスケジューラだけでなく、RFチェーン全体やアンテナ・サブアレイのディープ・スリープ、エンベロープ・トラッキング、きめ細かな電圧/周波数スケーリング、トラフィックを意識したウェイク/スリープ・オーケストレーションなど、AI 主導のハードウェア適応も進展します。アンテナ数が増加しても、エネルギーは削減が求められる制約条件です。

デジタルツインと高精度シミュレーション

アンテナ数、NTNリンク、RISパネル、センシングオーバーレイが増えるにつれ、物理的に試行錯誤することは非現実的です。障害を反映したモデルに基づくデジタルツインがPHYの選択、共存ポリシー、都市規模の展開をフィールド試験前にリスクを軽減する鍵となってきています。

AI実装の標準化

AIの派手な話題ほどの注目は集まりませんが、重要な標準化すべき要素があります。それは、現実的な障害を含む共有データセット、透明性のあるモデルの文書化、再現性の確保、そして基地局のエンコーダと端末(UE)のデコーダがシームレスに連携できるようにする相互運用可能なモデル交換フォーマットといったものです。

ワイヤレスネットワークの可能性を再定義

6Gは、ワイヤレスネットワークの新たなフロンティアを切り開くものです。その前に、スペクトラム共有、AI、テストの複雑化といった多くの課題を克服しなければなりません。後編では、こうした課題をどのように解決し、6Gを真の次世代技術へと導くかを詳しく解説します。

本記事はKeysight Technologiesが「EEWORLD」に寄稿した記事「6G Outlook: A Key Driver of the Evolution of Next-Generation Wireless Communication Technologies」を翻訳・改編したものとなります