現在、所有者不明土地が増加傾向にあります。このような土地の存在により「土地活用が思うようにできない」と、不満に感じている方もいるのではないでしょうか。所有者不明土地が増えることによって、将来的に道路建設やインフラ構築など、さまざまな場面で支障が生じる可能性もあります。
この記事では、所有者不明土地の具体的な事例や問題点、さらに問題解決方法について詳しく解説していきます。記事内容を参考に、所有者不明土地で感じている悩みを解消しましょう。
所有者不明土地とは
国土交通省によると、所有者不明土地とは以下の特徴を持つ土地のことです。
第二条 この法律において「所有者不明土地」とは、相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地をいう。
“引用:e-GOV「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成三十年法律第四十九号)」”
この条例を見ると、所有者を探索するために相当な努力がはらわれたのにもかかわらず、所有者が見つからないときに所有者不明土地になることがわかります。
土地所有者の特定が行われるときには、登記記録に記載された登記人を参照する方法がとられます。その後、記載されている登記人がまだ存命であるかを、住民票を用いて確認することが一般的です。この時点で、登記人が死亡しており、相続している人が見つからない場合は、所有者不明土地になります。また登記人が存命であるものの、引っ越しをしており現住所が特定できない場合も、所有者不明土地になる場合があります。
この方法で土地所有者を特定するためには、個人情報をもとに探索するなど、登記人のみならず家族や相続人の探索まで幅広く行われるため、特定に至るまでには多大な労力や時間がかかるものです。所有者不明土地は個人だけでなく、市区町村の損失につながりかねない負の面を持ち合わせた不動産といえるでしょう。
所有者不明土地が増加する原因
近年、人口の減少や高齢化といった社会的背景もあり、人々の土地利用の関心は低下傾向にあります。さらに地方から都市への移動に伴い、土地を所有するという点に対する意識が薄れ、その結果全国的に所有者不明土地が増加しつつあることが現状です。続く部分では、所有者不明土地が増加しつつある具体的な原因を2つ紹介します。
相続人がいないため
子供や親族などの相続人がいない場合や、相続人はいるものの消息がつかめない場合などは、所有者不明土になることが一般的です。今後、少子高齢化が進むにつれて相続人が不明になる土地が増え、所有者不明土地が増加することが予想されます。
相続人がいない土地は、最終的には国庫帰属になるため、何ら問題ないのではと考える方もいるかもしれません。しかし所有者不明土地への対策がなされず、引き取り手のない不動産を国が引き受けていくのみの状態が続くと、以下の懸念点が生じます。
- 財産的価値が少ない不動産の維持管理費の負担増加
- 処分が困難な負の財産の増加
これらのデメリットになる点を回避するためにも、相続人の特定強化の取り組みは必須といえます。
相続人が登記簿の名義を変更していないため
相続人が決まらずに不動産登記が放置されたり、相続人は決まったものの、土地の名義変更が行われなかったりすることも少なくありません。そのような状態が長い年月に及ぶと、最終的に土地所有者が誰なのかを把握できなくなります。
土地の登記が放置されるこれらの状況の背景には、活用が困難な土地であるという点が挙げられます。あえて名義を変えずに、そのまま放置状態にするほうが煩わされずに済むと考えるのです。また、登記の手続きを面倒だと感じて放置してしまうこともあります。
この問題点を解決するためには登記についての知識を深めたり、土地活用の方法を知ったりする必要があるでしょう。以下の記事でそれらの点について詳しく見るのもおすすめです。
所有者不明土地があると発生する問題点
所有者不明土地の増加は、今後私たちの暮らしにも大きな影響を与えることが予想されます。所有者不明土地が存在することにより、具体的にはどのような問題が発生するのでしょうか。
ここからは、所有者不明土地が原因で起きている主な問題を紹介していきます。
公共事業がスムーズに行えなくなる
介護施設や環境整備といった公共事業を行うためには、建設条件を満たした用地を取得する必要があります。しかし土地の所有者が不明な場合は、スムーズに用地を取得することができません。場合によっては所有者の把握や交渉に何年もかかり、公共事業の促進を阻害するケースもあります。
また、所有者不明土地は私道の公道化の申請ができません。さらに所有者不明土地を含む私道の場合には、要件を満たすことができない助成制度もあります。所有者不明土地が抱えるこれらの問題点が、公共事業の進捗に与える影響は非常に大きいといえるでしょう。
境界確認の立会いができない
土地の所有者が分からなければ、地籍調査や所有地処分をスムーズに進めることができません。特に隣接地が所有者不明土地の場合は境界確定の立会ができないので、近隣地域の土地活用への支障も出てくるのです。
市有地の隣接地が所有者不明土地の場合は、境界確定等が困難となり余剰地処分に影響が及びます。同様に、市有地の隣接地の中に所有者不明土地が含まれる場合には、隣接者全員の同意を集めることができず、民間に払い下げができなくなります。
境界を明確にするために行われる確定測量については、こちらの記事もおすすめです。
地域環境に悪影響を及ぼす可能性がある
所有者不明土地は手入れが十分になされていないため、樹木や雑草、ゴミなどが放置されやすい傾向にあります。隣接地に木の枝やゴミが入り込み、被害を被るケースもあるでしょう。
長期間放置された土地は不法投棄されやすく、場合によっては火災につながることも考えられます。何らかの犯罪が生じる可能性もあり、所有者不明土地の存在自体が、近隣住民の生活に大きな不安を与える原因になるのです。所有者不明土地は、地域環境上および環境衛生上問題のある土地になりやすいといえます。
土地だけでなく空き家を放置すべきではない理由と、解決策について解説した記事はこちらです。
農地利用が進まない
所有者不明土地が農地である場合や、農地に隣接する土地が所有者不明土地である場合は、農地の再活用の障壁になることがあります。
現在、国はできる限り農地を有効に活用するため、農地と農地利用希望者とをつなげる「農地中間管理事業」に積極的に取り組んでいます。しかし所有者不明土地が農地であったり、所有者不明土地に隣接している農地だったりした場合は、明確に境界を定めることは困難です。所有者不明土地の増加により農地の貸し出し手続きが滞っており、その結果管理事業に大きな支障が生じています。
農地を有効活用できなければ、農作物の収穫量は減少することが予想されます。ひいては食料自給率の低下および、経済力の低下につながることが懸念されているのです。
農地の活用方法について詳しく知りたい方は、次の記事がおすすめです。
土地を有効活用できなくなる
土地にはその土地の周辺環境や形状、需要の有無などによりさまざまな活用方法があります。しかし所有者不明土地があることが原因で、将来的に有益になりうる土地の利用が進まなくなる懸念が生じているのです。
土地を有効活用できない状態が起こると、以下の弊害が予想されます。
- 個人の資産価値が低くなる
- 土地売買が盛んに行われないため、経済的な打撃になる
- 地域活性化のために行われるはずだった事業が行えない
これらの状態は個人だけでなく、地域や日本の社会全体にも大きなダメージを与えかねません。所有者不明土地を解消できると、プラスの波及効果が期待できます。所有者不明土地解消に向けた、国を挙げての取り組みが求められているのはそのためです。
土地活用の方法について詳しい内容を知りたい方は、次の記事がおすすめです。
所有者不明土地を解消するための対策
年々増加しつつある所有者不明土地ですが、この状態を解消するために国は法制度を見直して、適宜改正や特例の整備を行なっています。具体的にどのような対策を講じているのでしょうか。
続く部分では、所有者不明土地を解消するための具体的な対策を6つ紹介していきます。
所有者不明土地の固定資産税は使用者が負担
課税の公平性の観点から、令和2年度の地方税法が改正され、土地の使用者を所有者とみなす制度が拡大されました。その結果、一定の調査を尽くしても固定資産の所有者が一人も明らかにならない場合は、その使用者を所有者とみなし、その者に固定資産税を課すことが可能になりました。
所有者不明土地の固定資産税を使用者に負担してもらうことで、国はこれまで徴収できなかった一定の税収を確保できるようになりました。
土地の固定資産税算出方法についても併せて知りたい方は、以下の記事がおすすめです。
変則型登記の土地であれば売却可能になった
2019年に変則型登記解消法が成立し、登記記録に表題部所有者の氏名・住所が正常に登記されていない変則型登記の土地は、法務局の登記官が正しく書き換えられるようになりました。さらに登記官が調べても分からない場合には、裁判所が選任した新管理者が売却できるようになっています。
この法案により、登記簿に住所の記載や所有者の記載がない土地でも、新管理者が処分できるようになったのです。
土地売却の流れと査定について詳しく知りたい方は、以下の記事がおすすめです。
土地所有権の放棄を可能とする措置を検討
現行民法には所有権の放棄に関する規定はありませんが、一定の要件のもとに、土地所有権の放棄を可能にする措置が検討されています。
土地の所有者が、相続開始前に所有権を放棄することを認めることによって、当該土地の所有権を公的機関に帰属できれば、所有者不明土地の発生を抑制することが期待できます。
相続したくない田舎の土地を処理する方法について知りたい方は、次の記事がおすすめです。
公共事業目的であれば所有権取得が可能になった
令和元年に、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法が施行されました。それにより、国や地方公共団体による公共事業などの使用目的の場合は、一定条件を満たせば、所有者不明土地の所有権取得が可能になりました。
具体的な公共事業として、震災や災害の被害にあった土地のインフラ整備、河川の改修工事、防災上の問題を抱えている土地に対する必要な整備などがあげられます。
行政が所有者検索を利用できるようになった
これまでは、所有者不明土地の地籍調査の最初の段階である「土地所有者の探索」に時間がかかっていました。しかし、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法により、地籍調査の円滑化や迅速化を目的として、所有者検索のための固定資産課税台帳や地籍調査票などを、行政機関が利用できるようなりました。
その結果、これまで所有者が不明で調査を進められなかった土地情報に対し、円滑にアクセスすることができるようになったのです。この所有者検索を利用することによって、探索の範囲を合理的に絞ることが可能になりました。
相続登記の義務付けが始まった
相続登記時に所有者不明になる事態を回避するために、相続登記の義務付けが規定された不動産登記法の特例が設けられました。この特例は長い間相続人がわからず、調査を行ったあとで相続人が判明した事例にも適用されます。
調査にあたる登記官は、職権によって相続人に登記を促すことも可能です。その際は、どれほどの期間登記がなされずにいたかといった調査内容も通知されます。この特例ができたことで、相続に絡む所有者不明土地の発生を改善できるようになりました。
所有者不明土地を上手に売却する手順
「自身の所有している土地が所有者不明の土地かもしれない」と不安に思っている方は、売却できる望みは薄いと感じるかもしれません。しかし所有者不明土地であったとしても、スムーズに売却することは可能です。それを実現するカギは、売却手順を確認しておくことにあります。
以下の部分では所有者不明土地の可能性がある場合に、スムーズに売却するための手順を解説していきます。
登記事項証明書で所有者不明土地かどうかを確認
所有者不明土地をスムーズに売却するためには、まず当該土地の権利についての書類内容を、正確に把握することです。そのためには法務局や登記所の情報にアクセスして、登記事項証明書を閲覧しましょう。
その際は、登記事項証明書に記載された以下の点を確認しておくことができます。
- 所有者の住所
- 氏名
- 抵当権の設定
上記の情報から、過去所有者の登記理由や登記した時期、土地所有権の共有者などを調べます。登記事項証明書を確認しても所有者が不明だった場合は、その土地は所有者不明土地とみなされます。
不在者財産管理人もしくは相続財産管理人を選任
所有者不明土地であることを確認したら、不在者財産管理人もしくは相続財産管理人を選任します。選任する際は、裁判所に申し立てを行いましょう。
相続財産管理人や不在者財産管理人には、所有者不明土地の行方を左右するような大きな権限が付与されます。所有者不明土地の解決において、重要な役割を果たすのです。この2種類の管理人には、どういった違いがあるのかを見ていきましょう。
不在者財産管理人を選任する場合
登記事項証明書等の所有者の一人が不明の場合は、裁判所に不在者財産管理人の選任申立てを行います。申し立てを行うと、相続に利害関係のない第三者が不在者財産管理人として、家庭裁判所から選任されます。
第三者の不在者財産管理人は司法書士や弁護士など、法に精通している専門家が選ばれることが一般的です。不在者財産管理人は、不明になった相続人の代わりに遺産分割協議にも参加します。
相続財産管理人を選任する場合
相続財産管理人は、亡くなった方に相続人がいるか分からない場合や、相続放棄によって相続する人がいない場合に、裁判所より選任されます。相続財産管理人を選任するときの流れは、以下の通りです。
- 相続財産管理人の選任申立書を作成する
- 家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立てを行う
- 選任の審理を行う
- 選任の審判が下りる
- 申立人の元に審判書が送付され、選任が公告される
相続財産管理人が選任される際に、予納金が発生する場合があります。予納金とは、相続財産管理人の経費や報酬に充てるための費用を指します。あらかじめ申立人が予納金の支払いを行い、相続財産管理人の報酬を担保する役割を果たしています。
予納金の額は家庭裁判所が決定しますが、その額は事案によって異なります。20万〜100万円ほどの幅があるため、予算は余裕を持って用意する必要があるでしょう。相続財産管理人は相続人が見つかるまで、土地の管理や相続人の調査、債務の弁済などを行います。また、相続放棄された家を片付けるときにも大きな権限を持ちます。
相続放棄で家を片付けるときに参考にできる情報を知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
不在者財産管理人または相続財産管理人と共有者で売却
不在者財産管理人または相続財産管理人が選任されたら、所有者不明土地の売却に移ります。仮に所有者の一人が不明のままであれば、不在者財産管理人または相続財産管理人が家庭裁判所の許可を得て、他の共有者と協力して土地を売却します。
土地が売れるまでの流れ
土地が実際に売れるまでには、いくつかの手順を踏む必要があります。効率的に手続きを進めるためにも、土地が売れるまでの流れを事前に把握しておくことが大切です。具体的な7つの手順を見ていきましょう。
- 不動産会社が土地を査定する
- 不動産会社と媒介契約を締結
- 価格を決めて土地を売り出す
- 購入希望者の現地視察
- 買主が見つかれば売買契約の締結
- 決済後に土地の引き渡し
- 売却した翌年に確定申告
土地の査定は不動産会社によって数百万円異なる場合もあるため、複数社へ依頼して結果を比較したほうがよいです。査定依頼の手間を省くなら、一括査定サイトを利用するのがおすすめです。
土地売却で発生する税金と控除方法について詳しく知りたい方は、次の記事をご覧ください。
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その他の一括査定サイトや選び方について詳しく知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
まとめ
登記がなされていない、または相続放棄されたといった理由で所有者不明になった土地は、さまざまな悪影響を招きます。本来、貴重な財産になるはずの土地が、所有者不明になることで個人の損失を招くだけでなく、地域社会のお荷物になってしまうことは避けたいものです。
あなたの所有する土地が複数人の相続人で構成されている場合は、売却の妨げになる可能性もあります。まずは法務局で権利に関する書類を確認し、所有者不明の土地になっていないか確認しましょう。
所有者不明の土地になっていた場合には、不在者財産管理人・相続財産管理人を立てて、売却を進めることができます。所有者不明の土地になっていたとしても、国の設けた手だてを活用しながら土地の売却を成功させましょう。
※「マイナビニュース不動産査定」は以下に記載されたリンク先からの情報をもとに、制作・編集しております。
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