「研究費」と聞いて若手研究者や学生の方が頭に思い浮かべるのは、一番馴染みのある科研費ではないでしょうか。しかしながら、研究費と一口に言っても実はさまざまな種類のものがあります。そこで本連載では、日本国内における各種研究費について紹介していきます。

第3回は、財団・民間の研究費について、助成金情報サイト「コラボリー/Grant」を運営されているジー・サーチの方に解説いただきます。


多種多様な助成事業

研究費に使える助成金は公的機関(日本学術振興会、各省庁、JST、NEDO、地方自治体等)からだけでなく、民間(財団、企業等)からもさまざまなものが提供されています。助成事業を行っている財団・企業は数多くあり、たとえば、助成財団の運営を支援する助成財団センターの加盟団体だけでも264団体(2016年6月現在)ありますし、研究助成事業を行っている団体・企業はこれ以外にも数多く存在します。

民間助成財団の特色として、事業内容が非常にバラエティに富んでいることが挙げられます。たとえば、予算規模が大きく、毎年多数採択しているトヨタ財団、武田科学振興財団、稲盛財団のようなところもある一方、中山隼雄科学技術文化財団(ゲーム分野の研究)、生命保険文化センター(生命保険分野の研究)など、特定の分野の研究を支援する財団もあります。また、研究資金の提供形態もさまざまで、いわゆる助成金のほか、共同研究の形式を取るものもありますし、課題を提示してコンテスト形式で優秀な研究アイデアを募るものもあります。

ここにあげた事例はごく一部なのですが、このように民間助成財団が多種多様な助成事業を行っていることをご存じない方が意外に多いようです。その理由のひとつに公募情報を探す難しさがあると思います。

自分に合った助成金を探す

多くの財団では公募時期が近づくと、大学の研究推進部門に公募情報(ポスターや募集要項など)を送っています。大学ではポスター掲示や学内サイトへの掲載、メーリングリストなどを通じて周知をしていると思います。ところが、これがたまたま目に入ればいいのですが、いざ探そうとすると意外に難しいのです。たとえばGoogleで「助成金」で探してみると起業や中小企業向けの支援事業などが上位に来てしまい、研究に使える助成金はなかなか見つかりません。研究助成金を探すことができる専門サイトをいくつかご紹介いたしますのでそれらを活用しましょう。

国、地方自治体、民間助成財団の公募情報と採択実績を研究助成に特化して収集し一括検索が可能。分野、キーワードから自分に合った助成金を見つけ出せる。検索機能と条件を登録しておくとデータ更新時にメールでお知らせするアラート機能を提供。

「コラボリー/Grants」のWebサイトイメージ

調査に回答を寄せた民間団体から提供される公募情報と採択実績を提供。公的機関の助成金は含まれないが、研究助成に限定していないため、出版助成、奨学金、会議運営支援などを含めて広く収録。

「助成財団センター」のWebサイトイメージ

科学技術振興機構(JST)が運営する科学技術情報の総合Webサイト。ファンド・各種募集コーナーで公募情報を提供しており、研究助成やコンテスト・顕彰情報が提供されている。

「サイエンスポータル」のWebサイトイメージ

民間助成金の特徴

科研費やJST/NEDOなどの公的機関から提供される研究助成と比較し、民間助成金は次のようなメリット/デメリットがあります。

民間助成金のメリット

  • 助成金用途の自由度が高いことが多い
  • 上記に関連し、会計報告の手続きがシンプル

民間助成金のデメリット

  • 助成額が小規模で助成期間も1年であることが多い(例外はあるが、100万円前後のものが多い)
  • 大学経費を負担しない助成プログラムが多い
  • 採択率が低い(数%程度)

採択率を上げるために

民間助成金に応募したことのある方は、採択率がかなり低いと感じられているのではないでしょうか。財団サイト等で採択率を公開している財団は多くないため、実際の数字はなかなかわかりませんが、たとえばトヨタ財団では選後評の中で採択率を公表しており、2015年度の研究助成プログラムは応募件数699件に対し、助成件数32件(4.6%)でした。文字通り狭き門で、採択された方はまさに「当たった」といった印象かと思います。

ところが財団の方にお話を伺うと、本当の競争率はもっと低いそうです。各財団には当然それぞれの助成目的があるのですが、実際には助成目的からずれている提案(申請内容)がかなり多いそうです。

つまり、財団がどのような提案を求めているかを読み取り、申請に反映する必要があるのですが、それが考慮されていないケースが非常に多いのです。したがって、採択率を上げたいのなら、募集要項を読み込むことは当然のこととして、財団サイトに前年度の選後評(選考委員長講評のようなタイトルになっています)があれば、必ず目を通しておくべきです。

実績はなくてもよい?

民間助成財団の特色として若手研究者支援に重きを置いている財団が多いことが挙げられます。年齢制限(概ね40歳以下)が設定されている助成プログラムも多いですし、財団側もより多くの若手研究者に自機関の助成プログラムに注目して欲しいと考えています。申請の際、実績(発表論文等)がないことが不安かも知れません。でもあまり心配する必要はありません。若手研究者は実績がないことが多いため、審査では実績よりも研究計画部分を重視するそうです。

キャリアアップのために

現在一線で活躍している先輩研究者は、どのように研究資金を拡大していったのでしょうか。JSTの戦略的創造研究推進事業(CREST)採択者の事例ですが、研究費を大きくするためのステップとして民間助成金をうまく活用されています。民間助成金で繋いで予備的な研究を行い、大型助成金獲得の準備をしていったことがうかがえます。民間助成金の活用の仕方として参考になるかと思います。

JSTの戦略的創造研究推進事業(CREST)採択者の事例 (DEIMフォーラム2015 BoFセッション発表資料より)

不採択になってしまったら

申請内容も悪くなく、注意深く、一生懸命書いた申請書でも、倍率が高ければ落ちる可能性も高いわけで、ある意味仕方がないところがあります。財団側も予算に限りがありますし、仮にまったく同じレベルの申請が10件あったとしても、採択枠が5件であれば、5件は不採択にせざるを得ません。つまり、不採択になったとしても、必ずしも申請書のレベルが低いとは言い切れないのです。

そのような不採択となった研究アイデアに、産業視点から光を当てるサービス「L-RAD(エルラド)」が2015年に登場しました。

L-RADは、各種競争的研究資金に採択されなかった申請書などの未活用アイデアを研究者がサイト上に登録することで、会員企業が検索・閲覧できるようになるというもので、申請書をキーにした産学連携マッチングシステムといえます。具体的な課題で共同研究を進める段階になった後は、所属大学や研究機関を交え、通常の産学連携スキームに従います。

「L-RAD」Webサイトイメージ

研究助成金という従来のスタイルの研究資金獲得方法だけでなく、L-RADの例やクラウドファンディングなど、研究資金や共同研究先の獲得方法も多様化し、今後次々と新しいサービスが出てくるのではないでしょうか。

若手こそ挑戦を

民間助成金の特徴についてご紹介いたしましたが、いかがでしょうか。助成額が小さく、採択率が低いといった面はあるものの、非常に使い勝手の良い助成金です。また若手向けの助成プログラムも多く、財団側も若手の挑戦を求めています。

まだ自身の研究の方向性が見定まっていない、深掘りができていない、学生や若手研究者の頃こそ、小規模の民間助成金を実績づくりに活用されてはいかがでしょうか。

単に研究資金を獲得するためだけでなく、申請書を書くことにより、自身の研究の整理・洗練になりますし、近い将来、大きな助成プログラムの申請書を書くときの練習にもなります。そして海外留学などの際、助成金獲得実績をアピールできます。ぜひ、ステップアップにつなげてください。

著者プロフィール

ジー・サーチ
2014年8月よりコラボリー/Grantsを運営。

コラボリー/Grantsは国、地方自治体、民間助成団体から募集される研究助成プログラムをワンストップで検索できるサービスです。キーワード検索に加え、独自に付与した分類からあなたにぴったりの研究助成金が見つかります。また、各助成プログラムが過去にどのような研究課題を採択したかが分かる採択実績も提供。