第2次世界大戦の末期には、ロケット・エンジンだけを用いて飛ぶ飛行機がいくつか作られた。しかし、今はロケットといえば、宇宙空間に向かうため、あるいは誘導弾で使うためというのが一般的。とはいえ、「航空宇宙」(aerospace)といってワンセットにされるぐらいだから、今回はロケットの試験を取り上げてみたい。

ジェット・エンジンとロケット・エンジンの違い

前回、ジェット・エンジンの試験施設を紹介した。ロケット・エンジンもジェット・エンジンと事情は同じで、それが設計した通りに機能することを、あるいは設計した通りの性能が出ることを確認するための燃焼試験は必須のものとなる。だから、そのための施設も必要になる。

例えば、固体燃料ロケットの燃焼試験で、燃焼時間、推力、最大燃焼圧力といったデータを取得・公表する事例がある。データを取得するということは、そのための計測施設が要るということだ。推力が足りなければ一大事だが、燃焼時間が足りないのも一大事。どちらも設計した通りに機能することを確認しなければ、実用にはならない。

もちろん、ロケットの開発に手を染めているメーカーであれば、作ったロケットを試運転するための施設も持っている。三菱重工のWebサイトに、燃焼試験設備を紹介するものがあった。この試験施設では、ロケット・エンジンを低圧室に入れて動作させるという。

三菱重工 | ロケットエンジン地上燃焼試験設備

メーカーだけでなく、宇宙航空研究開発機構(JAXA : Japan Aerospace Exploration Agency)みたいな研究機関もまた、自前のロケット試験施設を持っている。

調べてみると、屋内の試験施設で試運転を行う事例は他にもある。以下の写真は、LGM-30GミニットマンIII大陸間弾道弾の3段目ロケットを対象とする燃焼試験で、テネシー州のアーノルド空軍基地にある試験施設で実施していた。

  • 平な状態で吊った、ミニットマンIIIの3段目ロケットを作動させてテストしている模様 写真:USAF

    水平な状態で吊った、ミニットマンIIIの3段目ロケットを作動させてテストしている模様 写真:USAF

しかし実際のところ、「ロケットの燃焼試験をやりました」というプレスリリースが出た時に公開される写真の多くは、屋外でロケットを作動させているものだ。例えば以下の写真は、米陸海軍が共同開発している極超音速滑空飛翔体C-HGB(Common-Hypersonic Glide Body)を飛ばすための、ブースター・ロケットを試運転した時のもの。

  • 米海軍がC-HGB用に開発しているロケット・ブースターのうち、2段目の燃焼試験を実施したときの写真。場所はユタ州プロモントリー 写真:US Navy

    米海軍がC-HGB用に開発しているロケット・ブースターのうち、2段目の燃焼試験を実施したときの写真。場所はユタ州プロモントリー 写真:US Navy

C-HGBは名称どおり、陸海軍で同じ滑空飛翔体を使用するが、それを極超音速まで加速するためのロケット・ブースターは陸海軍が別個に開発している。上の写真は海軍向けのロケット・ブースターをテストした時のものだが、陸軍も別個に開発と試験を進めている。

このほか、衛星打ち上げ用のロケットに取り付ける固体燃料ロケット(ストラップオン・ブースター)の燃焼試験を実施して、その模様を撮影した写真をメーカーがリリースする事例もある。こちらもまた、屋外で試験を実施していることが多い。

ロケットと一緒に試験施設も作る

といったところで、昔話を書いてみたい。

ドイツは第2次世界大戦中に、液体燃料ロケットを使用する弾道ミサイル「A4」(いわゆるV2号)を開発して実戦投入した。ところが今と違って、ロケットそのものだけでなくロケットの試験施設も、前例などあってなきがごとし。ロケットを開発するだけでも大変なのに、そのロケットをどのような施設でどのようにテストすればよいか、という研究も一緒にやらなければならなかった。

もちろん、いきなりA4のような本格的なロケットを開発したわけではなくて、ずっと小型のものから手をつけた。なにしろ液体燃料ロケットそのものが未知の品物だから、どんな構造で、どんな材質にすればよいか、から試行錯誤しなければならない。そして、試行錯誤するためには試験施設が要る。

そこで、1932年にドイツのクンメルスドルフで、最初の液体燃料ロケット試験施設を設置した。「コ」の字型のコンクリート壁と、残る一辺は金属製の折り畳みドアで構成しており、ドアはロケットの搬入に使用する。木製の屋根がついていて、試験の際には開放する。コンクリート壁の高さは3.6mあったとのこと。

ロケットは上向き(ノズルが下を向く)で、スプリングを介して固定する。ロケットが燃焼すると推進力によって移動するので、その移動量を基に推力を計測する仕組み。また、燃料と酸化剤のタンクは別途設置してあり、これらは秤に載せた。燃料や酸化剤を消費すればタンクが軽くなるから、それを秤で読み取ることで消費量が分かる。

今なら、もっと精確かつ確実な計測を行う手段があるし、計測するデータの量も桁違いに多い。しかしなにしろ1930年代初頭の話である。その時点で使えるテクノロジーを使って、どんなデータをどのようにとるかから模索しなければならなかったのだから、関係者の苦労がうかがえる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。