F-35Bが短距離離陸や垂直着陸を行うためにモード変換を行うと、外見がガラリと変化する。なんと6カ所で一斉に扉が開き、しかも尾部ではエンジンの排気ノズルが下向きになって、その先端が胴体下面に突き出てくる。このメカメカしさが、この機体のたまらない魅力である(えっ?)。

リフトファンの扉とその後ろの扉

念のためにまとめておくと、「6カ所」の内訳は以下の通り。

  • リフトファン吸気口(胴体背面)
  • リフトファン排気口(胴体下面)
  • 補助空気取入口(胴体背面、後述)
  • エンジン排気ノズル下面
  • ロールポスト(左右主翼下面、2ヶ所)

さて。第188回第195回で、ホバリングしているF-35Bの写真を載せた。

コックピット直後にリフトファンが組み込まれているため、そのリフトファンに空気を送り込むための吸気口が背面に付いている。それがむき出しのままでは凸凹になって空気抵抗を増やす上に、ステルス性を台無しにしてしまうから、普段は蓋をしている。

この蓋、技術実証機のX-35Bでは左右両開きで、途中にヒンジを設けて、前から見ると「∧」型に開くようになっていた。しかし実用型のF-35Bでは構造をシンプルにして軽量化するため、後ろヒンジで上方に開く形に改められた。

その形状のせいで「トイレの蓋」なんていわれているが、イギリスでも「toilet seat」といわれることがあるというから、誰しも考えることは同じだ。

閑話休題。ホバリング中は前進速度がないからいいが、実際にはこの扉が上に開いた状態で(低速ながら)前進飛行を行っていることもある。付根のヒンジには、その際にかかる風圧に耐えられるだけの強度を持たせておかないと、飛行中に扉が吹き飛んでしまう。

もちろん、リフトファンの下方には吹出口があるから、そちらにも扉が付いている。こちらは二分割で左右に開くが、中間のヒンジはないので、ただ単に観音開きになるだけである。

  • 探してみたら、6カ所の扉すべてが見える写真を撮っていた。2018年9月にミラマー米海兵隊基地で撮影 撮影:井上孝司

    探してみたら、6カ所の扉すべてが見える写真を撮っていた。2018年9月にミラマー米海兵隊基地で撮影

STOVL時だけ使用する補助空気取入口

実は、左右に観音開きになる扉がもう1つある。リフトファン用の扉の後方にあるのがそれだ。これは、エンジン用の補助空気取入口。エンジン用の空気取入口は、普通にコックピットの左右に付いているのに、どうしてF-35Bに限ってこんなものが追加で必要になるのか。

それは、速度が落ちると大気吸入量が減るので、それを補うため。前進速度があれば、コックピットの左右に付いている空気取入口から、空気がどんどん入ってくる。しかし、前進速度が落ちると空気吸入量が減る。

空気吸入量が減るとエンジンの推力に響くが、垂直着陸のときこそエンジンは全力を発揮しなければならない。そこで補助空気取入口を開いて、空気吸入量を確保するようにしている。この扉の下を、左右の空気取入口からエンジンに向かうダクトが通っている。

技術実証機のX-35Bでも、この補助空気取入口は同じ位置に付いていた。ただし扉の構造が違っていて、X-35Bでは機体中心線側にヒンジが付いていた。だから、扉が開いた状態を真上から見ると、F-35Bは左右に扉が開いて開口部がひとつできるが、X-35Bは中央にヒンジと扉が陣取り、左右に二分割された開口部ができた。

部外者が常識的に考えると、F-35Bのほうが合理的だ。開口部の真ん中にヒンジと扉が陣取っていては、空気吸入の妨げになりそうである。にもかかわらず、X-35Bでこんな構造になったのには相応の理由があったはずだが、その辺の事情は、しかとはわからない。

実は、ハリアーやシーハリアーやAV-8BハリアーIIにも、補助空気取入口は付いている。空気取入口の後方側面を取り巻くように並んでいる、四角い蓋の列がそれ。

  • 地上で駐機しているAV-8BハリアーII。空気取入口の後方側面に、四角い補助空気取入口が並んでいて、その一部が開いている様子がわかる

主脚の色が違う

空母に着艦するF-35Cが、他のモデルよりも頑丈な降着装置を備えていないと具合が悪いのは、理解しやすい。実際、F-35Cの実機を見ると、首脚の脚柱が他のモデルよりも心持ち太いように見える。

では、F-35Bはどうか。垂直着艦の際には意外とドカンと降りているようにも見えるが、空母着艦と比べれば大人しいだろう。それに、陸上の滑走路に着陸するときでも、接地の際はそれなりの衝撃がかかる。

見た目の上では、F-35AもF-35Bも同じような脚柱を備えているように見える。ついでに書くと、この2モデルは翼幅や翼面積の数字も同じである。

ところが、陸上運用が前提のF-35Aと、艦上運用が前提のF-35B/Cでは、主脚の脚柱の色が違う。F-35Aの脚柱は白く塗られているが、F-35B/Cの脚柱はグレイというかガンメタリックというか、そんな色だ。白く塗られているのは、引き込み用のリンクと、それが取り付く部分だけである。

と思ったら例外が見つかり、ますます話がややこしくなった。F-35Cの量産仕様機はリンクが取り付く部分以外の主脚柱がグレイ/ガンメタでF-35Bと同じ色だが、F-35Cの開発試験用機(2号機)では、グレイ/ガンメタなのはリンクが取り付く部分より上だけで、そこから下は白である(F-35Bは1号機からグレイ/ガンメタだった)。

構造や材質から違うのか、塗装仕上げだけ違うのか。量産機で仕様変更があったのか。また新たな宿題ができてしまった。ちなみに、この色の違いがあるのは主脚だけで、首脚は、これまでに見たどの機体も白である。してみると、塩害対策で塗装が違うわけではなさそうだ。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。