F-35Bは他のモデル(空軍向けのF-35Aと海軍向けの空母搭載用F-35C)と異なり、垂直離着陸(VTOL : Vertical Take-Off and Landing)が可能である。もっとも実際には、実用性の観点からSTOVL(Short Take-Off and Vertical Landing)を行うのだが。

VTOL機は軽量化の要求がきつい

世の中に「重くなってもかまわない飛行機」というものは存在しないが、ことにVTOLやSTOVLを行う機体は要求が厳しい。なぜかといえば、VTOLの場合には離着陸の双方で、STOVLの場合は着陸の際に、エンジンの力だけで機体を支えなければならないからだ。前進速度がないのだから、主翼で揚力を発生させることができない。

すると、「エンジンで発揮できる浮揚力が、機体の重量を上回っていなければならない」という話になる。それを実現するには、エンジンをパワーアップするか、機体を軽くするかのいずれかだ。ところが、以前にも少し触れたように、エンジンをパワーアップしようとして、結果として機体が重くなってしまったのでは意味がなくなる。

  • ホバリング中のF-35B。この状態では、エンジンとリフトファンだけで機体を支えている

そして。開発が進むにつれて、重量増加の問題が露見するのは、飛行機の開発ではよくあること。F-35Bも例外ではなかった。そして2005年に、F-35Bで3,000ポンド(1,362kg)の重量超過が見込まれるという話が浮上。設計の見直しを行い、軽量化を実現する仕儀となった。

実はその過程で、航続距離や兵装搭載能力の要求をいくらか引き下げて、荷重制限も7Gに抑えることになった。それだけで済めばよかったのだが、軽量化のために部材の肉厚を減らせば、当然ながら強度や耐久性に影響する。

そして2010年に、軽量化を実施したF-35Bを対象とする疲労試験を実施したところ、予定外に早くクラックが発生してしまった。場所は、主脚の直後にある隔壁(バルクヘッド)で、所定より短い1,500時間の試験でクラックが発生してしまい、補強が必要になった。

2,000時間しか飛べません?

また、最近になって「F-35Bの機体寿命が短く、2,000飛行時間しかない」という話が浮上した。それに、またもや尾鰭がついて「F-35は機体寿命が2,000飛行時間しかない」という話が喧伝された。

しかし、正確にいうとこれは「F-35Bの初期生産ロット」に限定された話である。F-35AもF-35Cも対象外だし、F-35Bでも途中から改良済み。これは個人的な推測だが、軽量化の要求が出て対策を施したトバッチリが、寿命不足という形で出てしまったのではないだろうか。

F-35Bに関わる「寿命」の話というと、アメリカ議会の付属機関・政府説明責任局(GAO : Government Accountability Office)が2018年6月にリリースした報告書「F-35 JOINT STRIKE FIGHTER : Development Is Nearly Complete, but Deficiencies Found in Testing Need to Be Resolved」に、違う話も出てくる。

なんでもF-35Bではタイヤの寿命が短いのだそうで、平均すると着陸回数10回未満で使えなくなってしまうという内容。そこで「ロッキード・マーティンでは、通常のフルストップ・ランディング25回以上は使える新しいタイヤを開発する。2018年の末にテストする予定」と記述していた。

これだけでは、機体のせいなのかタイヤのせいなのか、どういう運用をするとタイヤが早く駄目になるのかがハッキリしない。続報はまだないが、何かわかれば書きたいところである。

リフトファンの利点

先に「エンジンのパワーアップ」と書いたが、ことにジェット・エンジンは気温の影響を受けやすい。

気温が上がると大気が膨張するのはご存じの通りだが、それは裏を返せば大気の密度が下がるということである。その結果として、酸素が減って推力減少につながってしまうわけだ。これはどんな形態の機体にも共通する問題だが、VTOLやSTOVLを行う機体では特に影響しやすい。

また、VTOLの際には高温のエンジン排気を下に向けて吹き付けるから、それが地面で跳ね返ってエンジン空気取入口に回ってくると、エンジンの動作に悪影響を及ぼす。

しかしよくしたもので、F-35Bはリフトファンを使用しているから、機首側面のエンジン空気取入口に近いところでは、地面に吹き付けるのはただの空気であり、エンジン排気ではない。JSF(Joint Strike Fighter)計画で、STOVLにSDLF(Shaft Driven Lift Fan)を使用するロッキード・マーティン案が採用された一因は、この点にあったようだ。

ただし、リフトファンを使用する時だけ、エンジンのシャフトとリフトファンの間に設けられたクラッチをつなぐので、飛行モードを切り替える度にクラッチをつないだり切り離したりする。だから、その「大馬力に耐えられるクラッチの実現」が1つの課題になった。

ちなみに、このSDLFを使用するエンジンとリフトファン一式の現物を、アメリカのワシントン・ダレス空港に隣接している、国立航空宇宙博物館の分館、ウドバー・ヘイジー・センターで見ることができる。F-35の前に作られた技術実証機、X-35Bと並べて展示してある。

  • ウドバー・ヘイジー・センターに展示してある、X-35Bとエンジン・リフトファンの一式

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。