2018年3月24日に、関西空港発・福岡空港行きのピーチ・アビエーション151便が、着陸後に首脚タイヤのパンクに見舞われた。当該機は滑走路上で動けなくなってしまったため、それを移動してどかすまで、福岡空港は閉鎖になった由。そこで今回は特別編として、「降りるつもりが降りられなくなった話」を。

なぜ着陸できなくなるのか

3月24日の一件に限らず、時折「目的地の空港に降りられなくなった」という場面に遭遇することがある(幸いにも筆者はそういう経験がないが)。降りるつもりなのに降りられなくなるのには、相応の理由がある。

3月24日の一件では、パンクで動けなくなった機体が、1本しかない福岡空港の滑走路を塞いでしまった。これはわかりやすい。また、滑走路上で事故が発生したとか、滑走路上に人や動物が侵入したという理由で閉鎖になることもある。

いずれのケースでも、滑走路が使えなければ離陸も着陸もできなくなるので、出発便は待たされるか、欠航。到着便は別の空港に降ろす、ということになる。

このほか、多いのは気象条件に起因する閉鎖。離着陸が行える最低条件というものがあって、その1つに視界がある。雨・雪・霧といった原因で視界が既定値を下回ると離着陸ができなくなるので、閉鎖となる。視界以外では、降雪と、それに起因する除雪作業も閉鎖の原因になり得る。

鉄道は強風のために速度規制がかかったり、運行を見合わせたりということがあるが、飛行機が離着陸する空港も、強風の度が過ぎると、やはり閉鎖になる場合がある。

風向が滑走路に平行していれば、向かい風になる向きから進入すれば離着陸はできる。問題になりやすいのは横風だ。大きな空港だと横風用滑走路を別に用意していることがあるが、それがなく、かつ横風が強い場合には、安全な離着陸ができなくなる可能性があるので閉鎖が起こり得る。

また、強風はボーディングブリッジや地上でのエンジン始動に悪影響を及ぼす可能性もある。民航機ではなく戦闘機の話だが、強い追い風が吹いている状態でエンジンを始動したらトラブルになった事例が、実際に存在する。

人為的な原因で閉鎖になることもある。管制官などのストライキとか、テロ事件の発生とかいったものがそれ。2001年9月11日にアメリカで同時多発テロ事件が発生したときには、民航機の運航が全面的にストップしたが、これも人為的な閉鎖のうち。

変わったところでは、「空港の門限(運用時間)が過ぎたので離着陸ができなくなった」がある。滑走路に向けてタキシングしていた出発機が、途中で門限に達してしまったのでターミナルビルに引き返した事例がある。一方、着陸ができなくなった場合は後述するダイバートが発生する。

着陸復行(ゴーアラウンド)

滅多に遭遇するものではないが、着陸進入中にパイロットが「やり直し」を決断して、いったん降下を止めて上昇することがある。これがいわゆる着陸復行(ゴーアラウンド)。

何かの事情で正しい進入経路に乗れなかったとか、進入中に気象条件が悪化して滑走路を視認できなくなったとか、風向きが急変したとか、機上で何かトラブルが発生したとかいったあたりが、着陸復行の原因として考えられる。

このほか、滑走路で何か問題が起きたために、管制官が進入中の機体に対して着陸復行を指示することもある。

もちろん、着陸復行をしないで済めば、それに越したことはない。しかし、着陸復行をためらったために事故を起こしてしまったのでは、元も子もない。安全第一だから、着陸復行する必要があると判断したら躊躇せずに実行する必要がある。

着陸復行の場合、同じ飛行場に降りることに変わりはないので、いったん上昇した後でぐるっと回って、同じ進入経路に乗り直すことになる。ただし、風向きの急変が原因だった場合は、進入経路を変えて反対側から降りることになるだろう。

決断高度(DH)

DHといっても「指名打者」のことではない。

着陸進入に関わる重要な要素として、「決断高度」(DH : Decision Height)がある。DHに指定されている対地高度まで降りても滑走路を視認できなかった場合には、安全な着陸ができない恐れがあるのでやり直しになる。DHが何フィートに設定されるかは、個々の飛行場における着陸進入支援設備の有無と、その内容によって決まる。

DHまで降りたことをパイロットに認識させるために、対地高度を表示する電波高度計には、「DH」の標示を出す仕組みがある。DHで問題になるのは「滑走路の地面まで何フィートあるか」だから、海面高度では意味をなさず、対地高度でなければならない。そこで、DHの標示は電波高度計に併設されている。

着陸地変更/目的地外着陸(ダイバート)

ところが、冒頭で取り上げた福岡空港の事案みたいに、長時間にわたって滑走路が使えなくなると、話は違ってくる。

短時間のうちに滑走路の運用を再開できる見通しが立っているのであれば、近隣の空域でグルグル旋回しながら待たせるのが一般的な手順で、これをホールディングという。第76回で解説したように、そういう事態に備えて予備燃料を搭載するようになっているので、短時間のホールディングならガス欠の心配はない。

しかし、閉鎖が何時間も続くと燃料がもたない。そんなときには、近隣にある別の飛行場に着陸地を変更する。場合によっては、出発地に引き返すこともある。

どちらにしても、出発前の飛行計画立案の段階で「もしも目的地に降りられなかった場合、代替飛行場をどこにするか」を決めてあり、そこに到達できるだけの燃料を搭載してから出発するようになっている。だから、ダイバートしたからといってガス欠になる心配はない。

2018年3月24日の福岡空港の一件では、北九州空港、長崎空港、鹿児島空港辺りが主なダイバート先になったようだ。中には、運が悪い飛行機がいて、九州ではなく海を隔てた四国の松山空港に降りた飛行機もあったという。

そのダイバートがとんでもなく大規模に発生したのが、2011年3月11日に発生した、東北地方太平洋沖地震の時。東日本各地の主要空港が軒並み閉鎖になってしまい、米系エアラインの中には横田基地に降りたものもあったという。

このほか、機体トラブルの発生や急病人の発生といった理由から、当初の予定を変更して最寄りの飛行場に緊急着陸することもある。