飛んでいる飛行機の乗員が自機の位置を把握する手段については、すでに書いた。しかし、地上にいる管制官が「どこにどんな機体がいるか」を知る手段も必要になる。それができないと管制の仕事が成り立たない。そこで、飛行場とその周囲を扱うターミナル管制と、巡航中の機体を扱うエンルート管制に分けて書いてみる。

ターミナル管制の位置把握

管制塔から見える場所は、飛行場とその近隣に限られる。天気が悪かったり夜間だったりすれば見えなくなる場面が出てくるが、それゆえに、「夜間は離着陸不可」とか「悪天候や視程不良のために離着陸不可」という話が出てくる。

その問題を解決するには、飛行場の周辺をカバーする監視レーダー、つまり空港監視レーダー(ASR : Airport Surveillance Radar)が必要になる。カバーできる範囲はさほど広くなくて、空港から110km以内。離着陸機の動向を把握するターミナル管制向けだから、これで用が足りる。

  • ASR/SSR アンテナ 写真:国土交通省Webサイト(http://www.mlit.go.jp/koku/15_bf_000407.html)

一方、地上に駐機、あるいはタキシングしている機体は、基本的には管制塔から目視で把握する。ただし、それでは夜間や悪天候のときに困ってしまうから、地上の機体を監視するレーダーを併用する。それを空港面監視レーダー(ASDE : Airport Surface Detection Equipment)という。

  • ASDEアンテナ 写真:国土交通省Webサイト(http://www.mlit.go.jp/koku/15_bf_000407.html)

ASRは大空に向けて電波を出すから、反射が戻ってくる相手は飛行物体だけである。しかし、ASDEは地上に向けて電波を出すから、地表、あるいは地上の車両や建物など、さまざまな反射源がある。その中から飛行機だけを選り分ける必要があるので、技術的にはこちらのほうが難しい。

もっとも、地面や建物は動かない。タキシング中の航空機や、走っている車両は動いている。ということは、後者だけがドップラー偏位を発生させるはずである。そこで、ドップラー偏位の有無によって反射波を解析して、動いているものと動いていないものを選り分ける。

また、ASDEのアンテナは固定式だから、そこを基準とする相対的な位置関係の情報として、建物やスポットの位置を事前に得られる理屈である。

ASRが使用する1次レーダーの電波は、周波数が2,700~2,900MHz。それに対して、ASDEが使用する1次レーダーの電波は、周波数が24.5GHzと一桁高い。高い分解能を実現しようとすると周波数が高いほうが有利なので、こうなる。

また、アンテナの回転数もASRの15rpmに対してASDEは60rpmと高い。それだけ情報のアップデートが頻繁になる。一方で、送信出力はASRの500kWに対して、ASDEは30kWと低い。カバーする範囲が狭いから、これで済む。

国土交通省のWebサイトを見ると、空港によって、ASDEがあるところと、ないところがあるのがわかる。ASDEがあるのは、トラフィックが多い空港、滑走路が何本もある空港である。

ただ、建物の陰になった部分はASDEでは探知できない可能性がある。そこで考え出されたのがマルチラテレーション(MLAT : Multilateration)。2次レーダー用トランスポンダーが出す応答波を複数(3カ所以上)の受信機で受信して、それぞれの受信タイミングの違いを基にして送信元の機体の位置を把握する、というもの。

もちろん、トランスポンダーの応答信号を使うから、そこに含まれる便名などの情報もとれる。また、機体側は既存のトランスポンダーをそのまま使うので、追加装備が要らない。

ただし、機体と受信機の位置関係によって測位精度に差が出るとか、建物からの反射が混在することによる精度の低下(いわゆるマルチパスか)とかいった難点はある。

エンルート管制の位置把握

エンルートになると、高度が上がるし、全行程に渡って目視可能な範囲内に人を置くのは不可能な相談。だから、地上の要所要所に設置した航空路監視レーダー(ARSR : Air Route Surveillance Radar)を使って、個々の機体の位置や針路に関する情報を得る。

では、太平洋とか大西洋とかインド洋とかいった広い外洋はどうか? 何もない洋上にレーダー施設は置けない。洋上航空路監視レーダー(ORSR : Oceanic Route Surveillance Radar)というものがあるにはあるが、あくまで陸地に設置するものだから、カバーできる範囲は陸地の近辺に限られる。

そこで広い外洋については、飛行中の機体が送ってくる、ポジション・レポート(位置通報)を基にして状況を把握する。陸上でも、レーダー施設がなければ同じことになる(いわゆるノン・レーダー管制)。

位置通報の内容は、自機の登録記号かコールサイン、当該地点の場所、通過時刻、高度。それと、次に通過する予定の位置通報点の名前と予定通過時刻。今は測位手段が進歩しているし、ADS-B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)みたいな仕掛けもあるので、洋上で位置を見失ったり迷子になったりする事故は起きにくくなったと思われる。

なお、空の世界はUTC、つまり標準時刻で動いている。日本標準時から9時間引くとUTCになる。

通信施設も必要になる

ターミナルなら飛行場に無線施設を設置することで用が足りるが、エンルートになると通信相手の機体が地平線や水平線の下に隠れてしまうこともあり得るから、管制施設にアンテナを立てるだけでは見通し線通信ができない。

だからエンルート管制でVHF無線機を使えるようにするために、地上の要所要所に対空通信所を設置する。そこと管制施設の間は有線で結ぶわけだ。

地上ならそれでよいが、広い外洋になると対空通信所を設置する場所もないから、以前に取り上げた短波(HF)通信機や衛星通信機の出番となる。