はじめに

半導体商社と聞いて、大枠を正しくイメージできる方は、それほど多くはないかと思います。今回は、半導体メーカーと顧客の間で黒子のように働いている半導体商社にクローズアップしてみたいと思います。エレクトロニクスの世界で、半導体商社が提供している付加価値を少しでも多くの皆様にご理解いただければと考えております。

半導体商社の基本的役割

まずは、半導体商社の基本となる役割について考えてみたいと思います。

カテゴリで言えば、専門商社になります。最近では半導体だけをやっている会社は少ないので、半導体を主に扱っているという認識で良いと思います。基本的には国内外の半導体メーカーと代理店契約を結び、メーカーの代理として、マーケットに対して販売促進活動を行います。

実際の物の流れに関しては、メーカーから代理店の倉庫を通り、その後顧客へ納入するのが基本的な流れです。これらが販売代理店の基本的な業務フローですが、多くの半導体商社は、販売代理店になることが多いため、「半導体商社=販売代理店」と捉えられがちです。しかし、厳密に言えばもう少し区分けがあり、それらを下記の図表1で説明しています。

(1)の販売代理店は、日本では一番スタンダードな形です。メーカーと正式な販売代理店契約を結び、販売促進活動全般を行い、実際の製品に関する物流業務全般を引き受けます。製品によっては採用前や採用後も技術的なサポートが必要な場合も多く、技術サポート力を売りにしている会社も多くあります。

(2)のカタログディスティも、メーカーと正式な販売契約を結びます。基本は在庫を保有し、マーケットに対して即納で少量から提供できるように事業が組み立てられています。(1)の販売代理店と比較して、顧客の量産サポートよりも、試作時に必要な数量を素早く提供することを売りにしているケースが多いのですが、最近は量産分野にも少しずつ目が向いてきていると思います。

(3)のブローカーは、特定のメーカーとは販売代理店契約を結ばず、顧客が欲しいという製品を調達することを得意とする会社です。メーカーから直接購入するわけではないので、価格は安価ということはないのですが、どこのメーカーにも縛られず、柔軟に顧客に提案できる部分が強みだと思います。これらの区分けは全て厳密になっているわけではなく、お互いクロスしていることも当然あります。販売代理店であり、カタログディスティであり、ブローカーでもある会社も存在しています。これらの割合は半導体商社の特徴となっています。

  • 半導体商社の区分け

    半導体商社の区分け

会社案内には書いていない、半導体商社が果たしている大きな役割

半導体商社の役割を考えてみます。通常の半導体商社の組織図を見てみると、本社があり、国内の主要都市に拠点を持ち、海外にもいくつかの拠点を持っているのが一般的です。

日本の顧客は全国に点在しており、本社1か所から厚いサポートを行うことはかなり困難であるため、拠点を広範囲に構えます。顧客も、サプライヤーには近くにいてもらい、高い頻度で面会およびサポートをしてほしいと望んでいました。

過去形で書いたのは、このコロナ禍で、半導体商社の営業が訪問できない期間が長期に渡って続き、アフターコロナはどうなっていくのか、まだ予想がつかないからです。このあたりは今後の動きに注目ですが、日本全国の顧客に寄り添い、拠点展開をするのが半導体商社の得意技であり、強みでもあります。

半導体商社の営業マンが顧客に通う理由は主に2つです。(1)デザイン・イン活動、(2)「納期」と「価格」です。

(1)のデザイン・イン活動とは、基本的には設計者と面会をし、顧客が新規で設計している製品に対して、自社が取り扱っている半導体を採用してもらうための売り込みです。この売り込み活動の巧拙は半導体商社にとっての生命線と言え、常に強化を求められる部分となります。

一般的には、半導体製品の中でも比較的安価なものと非常に高価な製品があります。高価な製品で、なおかつ半導体メーカーとして拡販を望んでいる製品に関しては、半導体メーカー同行で売り込みに行くことが増えます。ここで半導体商社の重要な役割は、メーカーが拡販を望んでいる製品の新規案件を発掘できるか。そして、メーカーから拡販を望んでいる製品の紹介先を聞かれた時に、適切な顧客の担当者を挙げることができ、速やかに面談できるかです。

(2)の「納期」と「価格」とは、既に採用された製品が実際に量産で流れているものに対してです。今のような半導体不足の時には、顧客の希望納期と実際の納入納期がマッチすることはまずなく、ほとんどのオーダーにおいて納期の調整が必要となり、営業マンの悲鳴が聞こえてきます。

価格に関しては、通常時であれば、顧客よりコストダウンの依頼が入るのが一般的です。年2回(もしくは年1回)の定期コストダウンは恒例行事となっており、顧客が大きくコストを下げることを求められる場合は、半導体商社だけでは解決できないため、半導体メーカーを巻き込み対策を打ちます。

顧客の現状を正確に把握し、どこまで対応すべきなのかをコメントするのも半導体商社の大きな役割です。半導体は非常に部品数が多いため、顧客に一度入っていくと、様々な形で接点が生まれます。顧客が困っていることを商社が助けたり、商社が困っていることを顧客が助けたりと、双方向の関係性が生まれることで、コミュニケーションが深まります。この点は半導体メーカーには実現が難しい、半導体商社が持つ役割となります。

もう1つの半導体商社の大きな役割は、バッファ在庫の保有・運用です。半導体の製造リードタイムはかなり長いので、顧客が実際のオーダーを出してから半導体メーカーに発注していては納期が間に合いません。また、突然生産台数が増えたりすることもあり、最低限のバッファ在庫を保有することは、顧客の安定した生産に大きく寄与します。こちらは、半導体商社の大きな役割と言えますが、点数が増えれば増えるほど、その管理工数も増え、そこに現在のような納期問題も加わってくると、営業マンは納期対応以外何もできなくなってしまうような状況になります。

同時に生産中止品の在庫に関しても半導体商社が一定期間保有することは良くあります。顧客はできるだけ在庫を減らしたい要望がありますが、現在では生産中止製品が非常に増加しているため、どこまで半導体商社が応えるのか、線引きが1つの課題になっています。

そして、最後に大事な役割をもう1つご説明いたします。実際の消費者は顧客で、実際の物を作っているのは半導体メーカーです。当然両社は利害が一致する部分もあれば、一致しない部分も多くあります。当然長く付き合っていると、ハードな交渉も出てきます。場合によってはお互いが納得いかない場合もあります。しかしながら直接やり取りしてしまうと、決裂してしまうことがあります。そこで登場するのが半導体商社です。お互いの要望を丁寧にヒアリングし、時にはお互いの愚痴を聞き、間を取り持つ動きをします。この役割は決して会社案内には書いてありませんが、密かに重要な役割であると私は思っております。そして、この動きの達人と言える人が、歴史の長い半導体商社には必ず何人か存在していて、それぞれのポジションでキーマンとなっています。

半導体メーカーの成熟に伴う半導体商社の戦い

従来、日本市場は非常に特殊なマーケットとして捉えられてきました。実際に、支払い条件は世界でも類を見ない、約束手形があります。最近では電子化されていますが、複雑であることと、割引を行わないとすると回収までかなり長期になります。

また、品質に対する要求基準は世界を見渡しても日本が一番厳しく、特に欧米メーカーが日本の顧客の要望を正しく理解することは困難でした。それでも今までは、日本のマーケットが大きく、グローバルで見ても一定の水準をクリアしていたため、日本の顧客は一定の発言権を持っていました。

しかし、現在は相対的に日本のマーケットが縮小したのに加えて、大手顧客が海外に工場を持ち、そちらで調達を行っていることもあり、半導体メーカーから見た日本マーケットは魅力が低下してしまいました。これらが感じられるようになった2015年くらいから、少しずつ半導体商社の置かれる立場が厳しく感じることが多くなってきました。

また、主要な欧米の半導体メーカーは、日本に進出してかなりの年数が経ち、一定の経験値を手に入れることができました。その中で日本マーケットのある一定の勘所を押さえることができてきたとしても不思議ではありません。

その結果、半導体メーカーによるWEB販売の強化や、主要顧客に対する直接販売の増加が数多く確認されます。直接販売はしないものの、価格の決定における商社側の裁量低下は最近強く感じるところです。

日系の半導体メーカーであっても、販売代理店政策の変更ということで、長年の付き合いのある商社が代理店から外れていくのをよく見ます。主要な半導体メーカーであれば、これらの流れはある程度強くなってくるのは間違いなさそうです。逆を言えば、規模も小さく社歴も浅い半導体メーカーであれば、当然状況は全く変わってきます。半導体商社が築き上げてきた販売網や人員を大いに生かせます。半導体商社による、半導体ベンチャーへの傾倒はある意味ではいつの時代でも必然であり、これからはより進んでいくことが予想されます。

しかしながら、半導体ベンチャーとのビジネスはどうしても長期的なビジョンが必要であり、半導体商社の屋台骨を支えるほどの金額まで持っていくことは並大抵のことではありません。そのために、既に成熟している一定規模以上の半導体メーカーの商権確保が必要になってくるのです。短・長期を織り交ぜた戦略の巧拙が、これからの半導体商社の将来を決めることになると思われます。

半導体各社が考える、未来への一手

当然、半導体商社も未来を見据えた次の一手を打ち始めています。最近の動きでは、事業でシナジーが見込めるスタートアップなどの会社に投資をするCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が出てきました。

昔から、半導体商社はメーカーに対して一定の投資をしてきましたが、CVCの形でファンドとして活動するようになったのは最近からです。この動きは半導体メーカーでも推進されており、半導体商社の動きと合わせて注視していきたいと思います。

2000年以前の半導体業界は、成長産業と言われていました。その後は日本の半導体メーカーの競争力低下と共に、産業全体では将来は厳しい見方をされています。この視点は日本だけのものです。ワールドワイドで見ると、むしろ将来に向けて非常に明るい見方をされています。日本の半導体メーカーが競争力を落としたのが、この見方を一般的にしてしまいました。最近になって、半導体に対する世の中の目が変わってきたのは非常にうれしいことです。この流れを変えずに、半導体業界全体を盛り上げていけるかは、関わっている我々一人一人にかかっているのだと思います。

半導体商社の未来予想図

半導体商社の未来はどのようになっていくのでしょうか?

半導体各社の動きを見ていると、未来に向けての特徴的な動きはいくつかのグループに分かれます。(1)規模を追求し、ワールドワイドでの競争に備えていくグループ。現在では5,000億を超えている会社も出てきていますが、米国と比較するとまだ小さく、今後も統合していく可能性が高いと思われます。1兆円を超える企業グループが2~3社くらいにまとまっていくことと思います。このグループの中にはEMSの機能を持つ会社も含まれています。

(2)規模の追求より、メーカー志向が強くなっているグループ。自社や子会社にて設計・製造機能を保有し、グループ内のリソースを組み合わせて、製品を作っていきます。

(3)カタログディスティのグループ。少数ながら日本にもカタログディスティはいます。自社の在庫保有を強化し、即日出荷可能製品を増やし、今後の企業が持つことが予想されるバッファ在庫のニーズに応えていくこととなります。

いずれにしても、商社各社は独自の付加価値を見出し、顧客に認知してもらうことが必要になってきます。世界を見渡しても、日本は圧倒的に商社数が多い国です。厳しい競争が待ち受けていることは間違いありません。

次に、各社の取り扱い製品ラインアップはどのようになっていくのでしょうか? 私は、伝統的な大手の半導体製品の取り扱い比率は下がってくると考えています。

半導体メーカーが成熟するにつれて、独自のアクションを取ることが増えてきます。半導体商社は自分たちの強みを活かせる相手も、見つけるか、育てるかして、パートナーとして活動することが増えてくるのではないでしょうか? 今までのように単純に、販売代理店契約を結んで、自社の顧客に拡販を行うだけではなく、マーケティング全般に深く関わり、ビジネスを一緒に立ち上げていくイメージです。当然出資を含めて、経営への関与を深めていくことになるかと思います。今後の半導体商社には、経営力を持った人材育成が急務になると思われます。

最後に考えてみたいのは、他の業界との連携です。半導体という商材は、一度ビジネスで関係した人間には非常に魅力的に見えるようです。この業界に一度入ったら、会社を辞めても、大体この業界に留まります。たとえ一度業界を離れても、すぐに戻ってくる方を何名も知っております。言葉では説明できない不思議な魅力があるようです。

それでも、半導体商社はあくまでも商社であり、トレーディングカンパニーです。取り扱いは半導体だけに絞ることは、絶対条件ではありません。各社が各社なりに考えて良いテーマです。自社の使命をミッションで定め、提供したい付加価値を確立し、自社のなりたい姿をビジョンに定めて活動するうちに、様々な気付きを得て、各社なりの進化ができるはずです。半導体を中心にしますが、自社の強みと相性の良いものを組み合わせることで、また違った半導体商社の未来予想図を描けるのではないかと考えています。