立命館大学は10月13日、Degas、浅井農園、エイブリックの3者と協力し、樹液発電を用いたワイヤレス植物モニタリングセンサシステムの実証実験を10月14日より沖縄県宮古島市にて開始すると発表した。

樹液発電は、植物の導管を通る水分(木部樹液)を電解液として、地面に刺すステンレス製の正極、導管に刺した亜鉛メッキされた針状の負極という構成で、土から根を通って、植物が水分(樹液)を吸い上げる仕組み(その際に土中のカリウムやカルシウム、マグネシウムイオンと植物中の水素イオンが交換されることで電子が発生)を使って発電するもので、立命館大学理工学部の道関隆国 教授が2012年に考案した。

  • 樹液発電
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  • 樹液発電による植物モニタリングセンサの概要と発電の仕組み (提供:立命館大学)

今回の実証実験で用いられる「樹液発電を用いたワイヤレス植物モニタリングシステム」は、そうして発電された電力をコンデンサに蓄え、一定の電圧に到達すると、電源回路として機能し、その電力により無線機が稼働、データをゲートウェイに送信することで、電源が用意できない場所でもセンサを用いたモニタリングを可能とするもので、最終的には無電源農地が多いガーナの南国果樹に適用させることを目標としている。

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    植物モニタリングセンサの構成と原理 (提供:立命館大学)

今回の実証実験はその第一弾として、ガーナの気候に近い沖縄県宮古島市にて、カカオやバニラなどに適用し、その有用性の検証を進めることを目指している。

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  • 宮古島の実験農場の様子 (提供:Degas)

センシング手法としては、樹液発電では植物が吸収する水の量などで発電量が変化するという特性で、水分が多いとコンデンサの充電時間が早くなり、発せられる信号の間隔が短くなる一方、水分が少なくなるとコンデンサの充電時間が長くなり、信号の間隔が長くなるので、そうした信号の間隔を見ることで植物の状況を把握することにつながるという。

実際に浅井農園にて温室内のトマトを用いた実験では、気温、湿度、日射量、土壌の水分、無線信号の間隔などを取得し、昼は無線間隔が短く、夜は長くなるというリズムが刻めることを確認。現在は、この無線の間隔と土壌の状況などの関係性を調べている段階で、それと並行して、今回の実証実験が進められる、ということとなった。

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    温室内のトマトにて行った実験で得たデータと各種環境条件の関係 (提供:立命館大学)

研究プロジェクトそのもののスケジュールは2021年7月~2024年6月の期間を予定しており、今回の宮古島市での取り組みが本格的な実験の始まりとなり、2022年ないし2023年には実際にガーナでの実証実験を行うべく、開発を進めていきたいとしているほか、実際にガーナにて農業資材融資・営農指導・デジタル化による事業創出を通じた小規模農家の所得向上事業を行っているDegasとしては、実証実験と並行して製品化も進め、1~2年ほどで商用化までこぎつけたいともしている。

なお、研究としては、現在は主に灌水を追っているが、今後は肥料を足したときの樹液量の変化や、外部の環境変化から、灌水のタイミングや肥料をやるタイミングを示すアラートなどを洗い出して、効率的な農業センシングの実現に向けて開発を進めていく予定としている。